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あの日――部室で初めて身体を重ねて以来、俺は見城さんとキスをしていない。
それはいつしか暗黙のルールのようになっていて、その後は一切、俺からだけでなく、見城さんからもしてくることはなかった。
……どんなに関係が募っても。
「……何がおかしいの」
「いえ……」
浴室で軽く逆上せてしまった俺は、用意されていたバスローブを着せ掛けられ、そのまま不意打ちのように抱え上げられてベッドまで運ばれた。
長方形の広い部屋の中、バルコニーとは逆側に位置する一角に、クイーンサイズのベッドが鎮座していた。そこに下ろされ、横たえられて、勝手に肌蹴てしまった合わせを軽く整えられる。
額にぬらしたタオルを乗せられ、傍らのサイドテーブルにはミネラルウォーターの入ったグラス。部屋に置かれていたというアメニティの扇子で柔らかく俺を扇ぐその姿はひどく甲斐甲斐しくも見えて……気がつくと俺は笑みを滲ませていたらしい。
結局、〝少しだけ〟と言いながら、双方がちゃんと達するまでは放してもらえず、事後に浴槽から引っ張り上げられた時には、半ば意識がもうろうとしていて歩くのもやっとになっていた。
元々熱めのお湯が好きなのは本当だけど、それはあくまでも大人しく浸かって疲れをとりたい時の話で――。
……そこであんなことをしていては、そうなるのも当前だ。
「だいぶ楽になった?」
「あぁ、はい」
ふう、と深く息をつき、俺は一度頭上を見上げる。
高い天井。それから更に視線を巡らせると、ベッドヘッド側の壁もほとんどガラス張りで、視界の端にきらきらとした夜景が映る。
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