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「……もしかして、酔いも覚めた?」
「……なんでですか」
「ワイン、持ってこようか」
「だからなんでですか」
「いや、なんとなく?」
その即答ぶりに、どういうつもりなのかと思わず半眼になるが、
「まぁ、それもいいですけど……」
結局は滑り落ちかけた額のタオルを手に取り、それも悪くないかと頷いてしまう。
そのまま見城さんへと向き直ると、彼はぱちりと瞬き、淡く微笑みながら「ん?」と僅かに首を傾げた。
……見慣れた、いつも通りの笑顔。
俺はとたんに少しだけ気恥ずかしいような気持ちになって、誤魔化すように話題を変えた。
「っていうか、これ……ベッドがツインじゃなく、一つなのは……」
「あぁ、それも予約がとれなくて」
「……」
「ごめん。それは確信犯」
だろうと思ったけど。
* *
照明を落としても、カーテンのないガラス越しの夜景のせいで部屋の中が真っ暗になることはない。
「おいで」
そんな中、俺はゆっくりと腕を引かれ、見城さんの方へと身体を起こされる。
「……っ!」
繋がったまま、向かい合わせに近づく距離。抗う間もなく、シーツの上へと腰を落とした見城さんの下肢にまたがる形で座らされる。
「ぇ……これ、ちょっ……」
「大丈夫、君の顔は見えないよ」
逆光になっているせいで、確かにそっちからは見えないかもしれない。だけどそれって要するに、俺からは普通に見えるってことだからな。アンタの表情も、その身体も……。
抗議しようと視線を上げれば、かち合った見城さんの双眸があまりに近くて――俺はとっさに目を逸らす。
その一瞬でもまぶたの裏には焼き付いていた。
青みがかったグレーの瞳に、滑らかに流れる金の髪。あいかわらず俺好みの整った顔――そしていつになく濡れた眼差しはひどく熱っぽかった。
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