*17.No title【Side:暮科静】

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 あれからまた少しだけワインを飲んだけれど、こんな時に限って、それほど酔えてはいない気がする。 「見えなくても、これ、は……」  だから無理……いや、例え酔っていたとしても、もともとこの格好は、俺は……。  と、怯むように半端に浮いたままだった腰に、見城さんの手が触れる。もう一方の手は、淡い光に照らされている背中に。 「あ、っ……!」  見城さんが、そっと俺の身体を抱き締める。  その力が強くなるにつれ、押さえ込まれるみたいに沈む腰。自然と深くなる繋がりを、嫌でも実感してしまう。  見城さんの肩口に、鼻先が触れる。  小さく首を振ると、より肌が触れ合い、距離が近まる。それはそれで恥ずかしいのに、身体を離すこともできない。顔を上げられない。だってどんな表情をしているかわからないから。 「静……顔、見せて」 「……っ」 「ねぇ……」 (無理……っ)  俺は再度首を振る。  たとえこれまで、どんな表情(すがた)を見られていたとしても――だとしても、いま、それを見られるのだけは絶対に嫌だと、俺はしがみつくみたいに彼の背中に、首に腕を回した。  酒が回って、酩酊して、記憶がない中でのことまでは知らない。だけどいま、俺はそうじゃない。今夜のことはきっと忘れない。忘れられない。だからこそよけいにそう思う。 「っは……、ぁ、……っ」  彼が窺うように優しく揺さぶってくる。  俺はいっそう腕に力を込めて、吐息に紛らせるようにして必死に声を抑えた。  まるで応えるみたいに抱き締め返しているとも知らないで、次には彼の後頭部の髪を握り込み、相手側からも上体を退()かせないようにする。  それでもどうにか顔を捩られ、耳殻を舐められた。
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