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「や、ぁ……」
「静……」
いつになく甘い囁きが、耳の中へと直接注ぎ込まれる。ふ、と笑うような呼気が掠めると、勝手にぴくりと肩が震える。
抱き竦められたまま、ゆるりと円を描くみたいに接合部をこすられる。腰の奥で燻る熱が、じわじわと温度を上げていく。
いつもみたいな、性急な触れ方じゃないのがいっそう俺から余裕を奪う。
……自分が自分じゃないみたいだ。
これまではいつだって、頭の中はどこか冷めていた。それがいまは蕩けるように、ふわふわとして掴みどころがない。それが今更怖くなる。
「ぁ、っ、……!」
柔らかな動きで胎内を掻き混ぜられて、それだけでもたまらないのに、狙ったように圧迫されたそこから、しびれるような愉悦の波が広がっていく。
追い上げられるまま、背筋が反り返りそうになり、俺は慌てて彼の頭を掻き抱いた。
「うん……もっとおいで、静」
「……っん、……!」
熱っぽく掠れた声で囁きながら、宥めるように、彼の長い指が俺のうなじを柔らかく撫でる。髪の間に差し入れられ、そのまま軽く梳くようにされる傍ら、密着した腹部に挟まれた屹立が、動きに合わせて少しだけ強く刺激される。ほどよく引き締まった筋肉の上を覆う、染み一つない滑らかな肌に扱かれ、揉まれて、止めどなくこぼれていた雫が一気に量を増した。
「静……ねぇ、静。ほら……俺に抱かれるの、気持ちいいよね……?」
愛しいように名前を呼ばれ、慈しむみたいに口付けられる。
こめかみに、耳に、目尻に、首筋に。唇以外、届く範囲全て――それだけでなく、頭の中も、心も身体も全部塗り潰そうとするかのようなそれに、俺は強い戸惑いを覚えた。
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