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いつになく、君に強く抱き締められた。
いつになく、君の声は甘かった……ように思う。
まるで俺の秘めた想いに応えるみたいに。
相変わらず顔はほとんど見せてくれなかったけれど、あれは……あの反応は、確実にいつもとは違っていた。
そのせいで、錯覚しそうになったんだ。
ねぇ、静。
君ってもしかして、俺のこと――。
「静……ねぇ、俺…………」
おかげで、うっかり告げてしまいそうになった。
「俺――……」
俺も、君のことが好きだよって。
直前に、違うとばかりに首を振られていなかったら、きっと言ってしまっていただろう。
そこで少し冷静になれた俺は、「俺の名前も呼んでよ」なんて、最初からそのつもりだったように言葉の先を変えながら、密やかに自嘲した。そしてそれを誤魔化すように、ひときわ強く君を抱いた。
「可愛かったな……」
それでも、あの日の君はやっぱり幸せそうに見えたんだ。
君は言葉をくれないから、その心はわからない。わからないけど、少なくとも仕方なく付き合ってくれているようには見えなかった。
それがとても嬉しかった。
(……誘って良かった)
まるで綿菓子みたいに甘く蕩けるようなクリスマスだった。本当に、本当の恋人同士が共有するような……。
――そんな関係のまま、別れの日まで過ごせないだろうか。
(プレゼントは、受け取ってもらえなかったけど……)
包装されたまま、壁際のデスクの上にあるそれを思うと、少々複雑な心境になるものの――。
(まぁ、まだ時間はあるし……)
残された時間は、あと3ヶ月弱。
決して長くはないけれど、何もできないほど短くはない。
(……まずは初詣かな)
アリアは今年も年始は休みだと告知がされていた。ということは、31日のバイトの後からはきっと静も身体が空くはずだ。
思えばへこんでもいられないとばかりに、俺は気持ちを切り替える。
自室で迎えた一人きりの目覚めは正直残念だったけれど、それでもまだしばらくは一緒にいられる――そう思えば、自然と顔が綻ぶのを止められなかった。
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