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俺はその日、静が早番だと知っていて、昼食を食べにアリアに行った。
そして客足が少し落ち着いた頃、例によって水を注ぎに来てくれた君に声をかけた。
今年も、初詣一緒にどうかなって。
正直、OKを貰えるのは当たり前だと思っていた。
そんな気がしていたのだ。なのに君は「すみません」と首を横に振った。
俺は本当に浅はかだった。
「弟が……事故ったっていうので、一応」
しかも、そんな理由を聞かされるともう何も言えない。
それどころか、
「弟……いたんだ」
次に口を突いたのは、最低にもたったそれだけ。
本来なら、何より「弟さん大丈夫?」と言うべきなのに、それを継ぐことすらできなかった。
「まぁ、バイクで単独って話ですし、命に別状はないらしいんですけど、一応数日は入院らしくて」
すると静が、まるで俺の心を読んだみたいにそう教えてくれた。
「そう……そうか。なら、良かった……いや、ごめん。良かったっていうのもおかしいか」
「いえ、実際良かったですから。それだけで済んで」
一応、詳しい検査結果はまだらしいですけど、と、淡々とした声と口調で言う静に、俺は何とか話を合わせる。努めて平静を装い、傍らに置いてあった食後のコーヒーを飲んでみたけれど、中身なんてほとんど残っていなかった。
「……じゃあ、えっと、今日……から?」
「いえ、明日からにしました。明日の午前中に出て、アリアが休みの間……三日まで」
「そう……そうか」
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