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困ったな。
上手く言葉が出てこない。
「なので……今年は」
「あ、うん。そっか。そういうことなら……」
何となく謝罪を重ねられたくなくて、俺は遮るように笑って言った。
「ご両親も心配されているだろうし……その方が弟さんも喜ぶだろうね」
「……いえ、弟は……」
「え……?」
「弟とは年も近いですし、もともとそんな仲がいいってわけでもないので」
「あぁ、そう……なんだ」
努めて平静を装い、当たり障りのない相槌を打つ。
けれども、その一方で俺はますます打ちのめされていた。
あぁ、俺は本当に何も知らなかったんだなって。
あえて聞かないようにしていたところもあるけれど、俺は静の家族構成――弟がいるかどうかすら聞いたことがなかった。それくらい、単なる友人同士だって普通に話せることなのに。
「……あ、もしかして、年下苦手っていうのは」
せめてもと、俺は記憶の中にある数少ない君の情報を思い出す。
静は苦笑混じりに持っていたグラスを天板に戻し、僅かに目を伏せた。今日の水は多くも少なくもない。恐らくは基本に忠実な、ちょうどいい量だった。
「よく覚えてますね」
はっきり肯定はされなかったが、その反応は認めたも同然だ。
「親が再婚して、急にできた弟だったんです。まぁ、それも小学生の頃の話なので、もう付き合いは長いんですけど」
昔から遠慮しない弟で、よくけんかしてました。
そんなふうに、珍しく自分の話をしてくれるのは、店が暇だからだろうか。
それとも、俺に気を遣ってくれているのか。
あるいは、年末年始を一緒に過ごせないということを、彼なりに残念に思ってくれているからなのか……。
どちらにしても、後はもう頷くしかない。
どのみち結果は変わらないんだから。
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