2.君の傍にいるということ

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 幹線道路に面した繁華街。加えて今年のクリスマスは休日だ。家族連れ、友人、カップルらしき二人組――など、人通りはいつになく多い。  街中に点在する街路樹も、数時間後にはきらびやかなイルミネーションに彩られ、辺りはますます活気付いてくるだろう。  実際、俺だって多少は浮かれていた。先約もなく、完全な独り身であるにも拘わらず、今夜は新しいワインを開けようかなんて朝から考えていたくらいだ。やはり子供の頃から刷り込まれてきた〝楽しいクリスマス〟というものは、いつになっても特別な時間(存在)であるらしい。  部室で静と共に花火を見た時の違和感が消えたわけではなかったが、それはそれ、これはこれだと割り切るくらいの余裕はまだあった。多分、蓋をしようと思えばできないこともない。  だからこそそんな心境にもなれるのだろう。  ある意味冷たい人間だと、言われたらさすがに寂しいけれど、そうでもなければ、ここまで(自分)の望むとおりのスタンスは貫けないような気もする。 (それに……やっぱりクリスマス(今日)くらいは素直に楽しまないとね)  ――けれども、そんな俺に対して静の纏う空気はどこか重く、俺は思わずその横顔を注視した。  過日のクリスマスに何か嫌な思い出でもあるのだろうか。それとも、知らないうちに俺が何かした……とか?  考えても思い当たる節はなく、仕方なく俺はただその時思い至ったことを口にする。 「今日は確か……午前中バイトだったね?」  もしかしたらそこで何か……。  探るように彼を見詰めていると、その視線が鬱陶しかったのか、静は僅かに苦笑した。苦笑しながら、諦めたように息をつき、 「はい、まぁ……そのバイト先を、変えようかと思ってて」  ややして俺を一瞥し、観念したみたいに微かに頷く。  俺は一つ瞬き、問い返した。 「バイト先って……駅前のカフェ(あそこ)だよね。今までずっと上手く行ってた気がするんだけど……何か不満でも?」 「不満……ってわけじゃ……」 「じゃあ、何かあった? ――今日?」  言い淀むような反応にそのまま切り込むと、静の眼差しが困ったふうに揺れた。  踏み込みすぎただろうか。  少しどきっとしたけれど、普通の友人でもこれくらいは言うだろうと、あえて身を退くことはしなかった。 「まぁ、ちょっと……」 「なに、はっきりしないね」 「……一応、相手がいることなので」  ――相手。  鼓動が更にとくんと脈打つ。 「だ……」  誰のこと? どこの何?  衝動的に問い詰めそうになり、俺はとっさに口を噤んだ。  待て待て……俺は何をそんなに必死になってるんだ。さっきまでの余裕はどこにいった?  幸い、俺には関係なさそうだし、それならもっと冷静に話も聞けるはずだろう。もっと普段通りに。平常心で。ともすれば他人事みたいに淡々と――。  自分に言い聞かせるように心の中で呟いていると、ちょうど近くを店のスタッフが通りかかった。俺は飛びつくように視線を転じて、気付いてくれたスタッフ(その彼)に片手を挙げた。
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