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そこに立っていたのは、見慣れた制服を着た年配の男性。
そしてその僅か後方に、俺宛ての荷物だろう箱を持って佇むもう一人の男――。
「……え」
見慣れたダウンジャケットに、ラフなジーンズ。首に巻かれた濃いグレーのマフラー。
「……静……?」
無意識に呟いた声は、「ここにサインかハンコをお願いします」という配達員の声に紛れて消えた。
* *
荷物は明日花からだった。
中には数本のワインと、卒業したら継ぐと言っていた酒屋のスタイルで、楽しそうに笑う明日花の写真入りの年賀状が入っていた。
そしてその荷物を、配達員の代わりに抱えていた――行き先が同じだと知って自ら申し出たらしい――のは、紛れもなく静だった。
「えっと……」
想定外の事態に自分で思うより動揺していた。
とりあえず荷物と共にリビングに通したはいいけれど、何から聞けばいいのか言葉に迷う。
すると静が小さく息をつき、
「……風呂、入ってたんですか?」
ちらりと俺の髪を見た。
俺は「え」と声を漏らす。
適当に着替えは済ませていたものの、見るからに風呂上がりの様相には変わりない。乾かす前だった髪先は、いまだ水気を含んで束になっていた。
「あぁ……実は朝まで飲んでて」
「朝まで」
「あ、いや、ここでね。一人で」
髪をほどきながら継いだ言葉が、どこか言い訳めいたものになる。
けれども静はそれに応えることなく、ただテーブルの上へと視線を移す。そこには飲みかけのワインの瓶と、食べかけの軽食、煙草の吸い殻が山のようになった灰皿が置かれたままだった。
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