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「俺の恋人になってよ」
自分でも驚いた。
驚いたけど、止められなかった。
「春まででいいから、俺と恋人ごっこをしてくれないかな」
「――は……?」
その言葉は、思ったよりも君を動揺させてしまったらしい。
そうだよね。君にはきっと想像もつかない提案だったよね。
だけどその姿すら可愛いと、愛しくて堪らないとしか思えなかった俺は、本当に何も見えなくなっていたんだろう。
「何、ばかなこと……」
「俺は本気だよ」
遮るように言いながら、取り替えたばかりの真っ白なシーツの上で、新たに深く繋げた身体を――僅かに強張るその顔を、俺は静かに見下ろした。
……温かい。できることならずっとこうしていたい。
だけどそれは無理だから。それはわかっているから。だから、もう少しだけ。
何度触れても飽きないこの子を、俺だけのものに――。
「――…」
信じがたいように見上げてくる視線が俺を捕える。それをまっすぐに受け止め、俺はいっそう柔らかく微笑んだ。
「ね……いいよね?」
……まるで君を試すみたいに。
静はそれを拒否しなかった。
拒否しないかわりに、承諾もしてくれなかったけれど、俺はそれでもこの願いは叶えられたと思った。
そうして、彼のバイトがあると言った4日の朝まで、俺は彼を自宅に帰さなかった。
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