19.夢の跡

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 ――俺と恋人ごっこをしてほしい。  要するに、期間限定の恋人になってほしいと俺は言ったのだ。春までの限られた時間を、君とそういう関係で過ごしたいと。  それがその時の俺に言える精一杯の言葉だった。  そして実際、あれから今日までのおよそ二ヶ月、俺は俺の思うように彼と過ごすことができた。  卒業研究など、学校のことだけでなく、春からの準備にも時間を取られ、忙しい日々でもあった。  それでも合間を縫って会えていたし、会えば会うほど、君もまた俺に夢中になってくれているような気がしていた。  君の全てを塗り変えたのは俺だ。  そう思えることが純粋に嬉しかった。  それはもう、もっとずっと早くにこうしていれば良かったと思うほど、夢みたいな時間だったのだ。  ――なのに、それは唐突に訪れた。  亀裂が入るのは一瞬、次には一気に崩れ落ちた。  すでに春休みには入っていたけれど、卒業式の日まではまだ二週間はある朝のことだった。 「引っ越し? 今日?」 「うん、今日」  下着姿でベッドサイドに座り、煙草を吸っていた静が、何でもないみたいに頷いた。  その後ろ――シーツの上でのんきに寝転がっていた俺は、僅かに遅れて起き上がる。 「どこに?」 「それは言わない」 「え……なん、で……?」  声が勝手に上擦ってしまう。  確かに俺は静の就職先すら知らないままだ。決まったということだけは聞いていたけど、何度訊いても詳細は教えて貰えなかった。  ……え、恋人なのに?  あんなにも甘い日々を過ごした関係なのに? 「恋人ごっこも、ここで終わりだから」  それを否定するよう、静は言った。  振り返ることもなく、淡々と煙草を吹かしながら、 「始まりはアンタが決めたんだから、終わりは俺が決めたっていいだろ」  まるで他人事のように彼は続ける。
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