19.夢の跡

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「明日引っ越したら、あとは卒業式の日に学校行くだけだから」 「いや、待っ……。だってまだ、卒業式までは……」  2週間以上もあるのに。  身を乗り出してまで告げようとしたその言葉は、声にならなかった。  不意に振り返った静が、俺の上に影を落としたから。鼻先を嗅ぎ慣れた匂いが掠めて、かと思えば、仄かに苦味のある味が唇に触れた。  静が俺にキスをしていた。 「……らしくねぇな」  静はゆっくり顔を離すと、呆然とする俺を見て小さく笑った。 「え……」 「よく考えろよ、見城さん。アンタはさ、これから進むべき道がちゃんと決まってる。仕事で成功して、それから……いずれはアンタに見合うようなきれいな人と結婚をして、子供を作って……幸せな家庭を築くんだろ」 「そ、れは静だって……」  冷たくなった指先を握り込み、うるさいばかりの鼓動の中、辛うじてそう返すと、静は苦笑混じりに首を振った。 「俺、バイじゃねぇから」  俺は今更はっとした。そう言った静の表情はどこか寂しそうにも見えて、俺はとっさにその身を抱きしめたい衝動に駆られてしまう。  だけどもう、それすら静は許してくれなかった。 「アンタはアメリカ(向こう)に帰る。俺は俺で自分の道を行く。アンタはまだ当分は恋人を作らない。そこを変えたとしても……そもそも俺は遠距離は無理。……っていうか、アンタだって最初からそのつもりだっただろ?」  言い聞かせるように言いながら、静はおもむろに立ち上がる。そして持っていた煙草を口に戻し、足元に落ちていた服を拾い上げると、 「だから、卒業式が終ったら俺は番号を変える。その時、アンタの連絡先も消すから」  最後にとどめのような言葉を残し、そのまま部屋を出て行った。
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