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(嘘、だろ……)
これで終わり?
本当に?
……こういうのをなんて言うんだったか。
青天の霹靂?
(……静)
君はずっとそのつもりだったのか。最初から今日を終わりの日にするつもりだったのか。
朝になったらそう告げるつもりで、昨夜も変わらずに俺に抱かれていたのか。
(…………嫌だ。嫌だよ、俺は)
思うのに、ろくに立ち上がることもできない。
追いかけなければと思うのに、身体がそれを拒絶する。
追いかけたところでかける言葉なんてないと頭ではわかっているからだろうか。
(だってまだ、時間はあったはずなのに)
最後の夜はどうしようかなんて、俺なりに考えてもいたんだ。クリスマスの夜のように、特別なものにしようかとか、それともあえていつも通りに、俺の部屋がいいだろうか、とか……。
だけどそれもすべて泡と消えた。
……彼の中にはずっとあったのだろうか。
俺の乞うままに寄り添ってくれているように見えて、そしてそれを自らも望んでくれているように見えて、それでも俺の色に染まりきらなかった何か――強い意志のようなものが。
俺だってどこかでずっと思っていた。
彼が言ったのと同じように、いつかは静も結婚をして、子供を作って、温かな家庭を築くんだろうって。
だけど、静はバイじゃないと言った。
それはつまり、これから先も彼の隣にいるのは女性ではないということだ。
……想像するだけで、やり場のない嫉妬心が湧いてくる。
(何で先に言ってくれなかったんだ……)
言われたところで、結果は変わらなかったかもしれないけれど。
それでも、できることなら、君のことなら知っておきたかった。
(……これも自業自得なのかな)
俺は今まで、ある程度は何でも自分の思うとおりになると思っていた。
実際、静のことだって、それに当てはまらなかったとは言えない。
だけどこの結末は思い描いていたものとは違っていた。
(ああ……そうか)
静はきっと、別に俺のことが好きだったわけじゃない。俺と同じ気持ちでいてくれたわけじゃない。
ただ友達として――ちょっと親しい友達として、俺に合わせてくれていたにすぎなかったのだ。
なのに俺はそれに気付かず――気付かないまま、無理矢理彼の中を俺でいっぱいにしようとしていた。したつもりでいた。
(ばかだな、俺は)
そもそもどんなに上から塗り潰したところで、下にある物が消えるわけじゃないのに。
……思い違いもここまで来ると笑えてくる。
せっかく初めて静からキスしてもらったというのに、情けないくらいそれに構う余裕もなかった。
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