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「……避けられたかな」
なのにその日、俺は彼を捕まえることができなかった。
遠目にその姿を見つけることはできたのに、式が終わり、外に出た頃にはもうどこにもいなかったのだ。
サークルの部員から花束を貰うときにも、「暮科さんは急ぐとのことで、先に受け取って貰いました」との前置きがあったくらいだ。
(……冗談だろ)
思ったけれど、これが現実らしい。
* *
帰り際、「これから頑張って下さい」と名前も知らない相手からもいくつかプレゼントを渡された。それを落とさないよう気をつけながら、もう歩くこともないだろう緩く長い坂道を下っていく。
学校までの行き帰りを、こうして歩くこともあった。
俺が歩くときは、だいたい君が隣にいた。
まもなく見えてきたマンションを何気なく見上げる。
俺の部屋は5階にある。静が借りていたアパートの部屋は2階だった。
エントランスへと近づくにつれ、足取りが重くなる。
……ああ、もう着いてしまった。
結局帰り道でも、当然のように君の姿を見つけることはできなかった。
はぁ、と深い溜息をつきながら、俺は仕方ないように視線を前方へと戻す。
「……!」
その瞬間、俺は目を瞠った。
エントランス前のポーチに誰か立っている。その〝誰か〟の手には、俺がサークルの部員から貰ったのと同じ花束が――。
「……なんて顔してんだよ」
久しぶりに聞いた、けれども聞き慣れた声が耳を打つ。
「静……」
その名を口にすると、とたんに鼻の奥がツンとして、たちまちじわりと視界が滲んだ。
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