19.夢の跡

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「……そっか。それは悪かったね」  言葉のわりに……その表情。許してないっていうのは、きっと嘘だよね……?  反芻すればするほど、じわりと込み上げてくるものを感じて、それを誤魔化すようにいっそう笑みを深める。  あとは何て言ったっけ……。セフレ……セフレか。  ……あぁ、そっちはちょっと傷つくなぁ。  まぁ、そう思われていても仕方ないのかもしれないけれど。  俺と静との関係に名前を付けるなら、もうそれしかないんだろうから。 「……悪いと思ってねぇだろ」 「思ってるよ。……じゃあ、今後は誰にも抱かれないんだね」  あえて揶揄めかして言ってみたら、冷たい目で見られてしまった。  ……でも、そうか。  静はこの先、誰にも抱かれないのか。  いままでだってそのつもりだったことを考えると、絶対とは言いきれないだろうけれど。  それでも、その可能性が低くないことを思えば、心がふっと軽くなる。 「――じゃあ、言いたいことは言ったから。俺はこれで」  バルコニーから部屋へと上がった静は、まるで幕を下ろすようにゆっくりと、開け放っていた窓を閉めた。  嫌でも現実に引き戻される。  ……ああ、今度こそこれでさよなら(終わり)なのか。  実感すると、考えるより先に身体が動いた。 「ねぇ、静。最後に――」  空っぽになったカップを持ったまま、束の間佇む彼へと向き直り、俺はゆるりと両手を広げた。  静は瞬き、呆れたように溜息をついた。 「いい加減学習しろよ」  言いながらも、静は逃げないでいてくれた。  俺が距離を詰めても、一歩も退()かれることはなかった。 「言っただろ。……ここは日本だって」  吐息混じりの、呟くような静の声が耳元を掠める。  俺は視界が揺らぐのを隠すように目を閉じながら、決して腕を回して(応えて)はくれない静の身体をそっと抱き締めた。
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