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「……そっか。それは悪かったね」
言葉のわりに……その表情。許してないっていうのは、きっと嘘だよね……?
反芻すればするほど、じわりと込み上げてくるものを感じて、それを誤魔化すようにいっそう笑みを深める。
あとは何て言ったっけ……。セフレ……セフレか。
……あぁ、そっちはちょっと傷つくなぁ。
まぁ、そう思われていても仕方ないのかもしれないけれど。
俺と静との関係に名前を付けるなら、もうそれしかないんだろうから。
「……悪いと思ってねぇだろ」
「思ってるよ。……じゃあ、今後は誰にも抱かれないんだね」
あえて揶揄めかして言ってみたら、冷たい目で見られてしまった。
……でも、そうか。
静はこの先、誰にも抱かれないのか。
いままでだってそのつもりだったことを考えると、絶対とは言いきれないだろうけれど。
それでも、その可能性が低くないことを思えば、心がふっと軽くなる。
「――じゃあ、言いたいことは言ったから。俺はこれで」
バルコニーから部屋へと上がった静は、まるで幕を下ろすようにゆっくりと、開け放っていた窓を閉めた。
嫌でも現実に引き戻される。
……ああ、今度こそこれでさよならなのか。
実感すると、考えるより先に身体が動いた。
「ねぇ、静。最後に――」
空っぽになったカップを持ったまま、束の間佇む彼へと向き直り、俺はゆるりと両手を広げた。
静は瞬き、呆れたように溜息をついた。
「いい加減学習しろよ」
言いながらも、静は逃げないでいてくれた。
俺が距離を詰めても、一歩も退かれることはなかった。
「言っただろ。……ここは日本だって」
吐息混じりの、呟くような静の声が耳元を掠める。
俺は視界が揺らぐのを隠すように目を閉じながら、決して腕を回してはくれない静の身体をそっと抱き締めた。
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