20.Epilogue

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(懐かしい――)  記憶にある道を辿り、やがてとある店が見えてきたところで、信号にひっかかった。  見慣れた景色に思わず笑みが滲む。けれども、最初はそのまま通り過ぎるつもりだった。  考え直したのは、いつのまにかそこから目が離せなくなっていたから。  自覚すると再び胸が苦しくなってきて、このままではだめだと思い至った。  青信号になり、俺はまっすぐ駐車場に車を入れた。  成り行きではあるけれど、ここに来たことで何かが変わらないだろうか。  せめてこの棘が、抜けるきっかけにならないだろうか。  ……俺は変わりたい。  その思いに嘘はない。 「――…」  車を降りて目を向ける。  記憶の中、鮮明に残っていたその佇まいは、まるで当時のままだった。  *  *  この街(ここ)での生活やこの店のことは、アメリカ(向こう)でのルームメイトにも話したことがある。共同生活を初めてしばらくたった頃、楽しかった思い出として聞いてもらったことがあるのだ。  だからやがて俺が体調を崩し、 「――降板? あんなに喜んでいた舞台なのに?」  そうと知ったルームメイトは、本当に驚いたことだろう。  彼との間には……彼ともそれこそ、途中からはセフレのような関係ではあったけれど……基本的にはいつも楽しく、穏やかな時間が流れていたから。少なくとも、彼はそんな日々を何より幸せだと言ってくれていた。 (なのに俺は……)  一体どれだけ周りの人を振り回せば気が済むのだろう。  俺は軽く頭を振ると、目の前の扉に手をかけた。 「いらっしゃいませ」  カランと店内に響いたベルの音も変わっていない。反して覚えのない店員に案内されるまま、俺は喫煙席の一つに座り、ぼんやりと外の景色を眺めた。
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