20.Epilogue

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 *  *  *  親が俺の住居として手配してくれていたのは、知り合いが経営するというホテルの一室だった。  そこからアリアまでは、車で一時間近くかかる。  それでも俺は、半月後には再び(アリア)まで足を伸ばしていた。前回より少し遅めの、16時頃のことだ。  俺の記憶が確かなら、前回は早番のみ、今回は通常シフトなら遅番も出ている時間帯なのだ。  そうかと言って、やはり彼の姿はどこにもなかった。  ただ前回と同じ小柄なスタッフが俺を覚えてくれていたらしく、それはもうわざとらしいくらいにこやかに応対してくれた。  そんな彼からは、とても素直に好意を持ってくれているのが伝わってきた。……最後まで本心の見えなかった静とは正反対だなと思った。  11月に入り、俺はこれを最後にしようと決めて、また店に向かった。  その日は一度目と同様、14時頃。 「いらっしゃいませ」  案内してくれたのは、前回、前々回と同じスタッフ()だった。  俺が店に入るなり、急くように出てきてくれたところを見るに、自分で俺の相手(それ)を希望してくれたのだろう。  彼が特徴的だからというだけでなく、これだけ続くと、俺だってすっかり覚えている。『木崎沙耶 -Kizaki Saya-』シンプルだけれど、洒落たネームプレートにはそう書いてあった。 (サヤっていうのか……名前まで可愛らしいな。よく似合ってる)  そうと知った時、どこか微笑ましくなったのを思い出す。 「こちらでよろしいですか」  示されたのは、いつもと同じ席。  俺は「ありがとう」と頷き、そのままホットコーヒーを一つ頼んだ。  腰を下ろすと、取り出した煙草とジッポを天板に置いた。  抜き出した一本をトントンと傍らで弾ませ、口端に添える。先端にジッポを近づけると、そこで水のグラスが運ばれてきた。先ほどとはまた違うスタッフだった。  彼が踵を返したのを見送りながら、ジッポの蓋を開ける。  一方で、癖のように視線が店内を巡り、再び手元へと戻ってくる。 (…………え?)  けれども、その全ての動作が一瞬止まった。  刹那、今見たばかりの光景が頭の中で早戻しされ、ゆっくりと再生される。
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