2.君の傍にいるということ

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「それで……今夜はどうするの?」  それを言うには、少しだけ勇気がいった。  だけどそれには目を瞑り、俺は続ける。 「その子にはつきあってあげるのかな」  すると静は、一瞬ぴたりと動きを止めて、 「……断ったからバイト先()変えたいんですよ」  と、ばつが悪いみたいに溜息をつく。 「ああ、そうか」  俺はとぼけたふりして苦笑しながら、一方でまぁそうだよね、とその確認ができたことにほっとした。  静は胡乱げに目を細め、けれどもそれ以上は何も言わなかった。何も言わず、ただ残り少ないカップの中身を飲み干して、横目に時間を確認する。 「帰るなら、送るよ」  空気を察して先手を打つと、静は小さく瞬き、それから「どうも」と僅かに頭を下げた。  俺はどういたしましてとにっこり微笑み、自分もカップを空にする。 「じゃあ、行こうか」  伝票を手に立ち上がり、レジへと向かう途中、 (それにしても……)  ふと頭を過ぎったのは、女の子に告白される静の姿。俺が告白されるところは何度か見られているけれど、俺が静のそんな場面に遭遇したことは一度も無い。あの容姿からして、もてないわけではないだろうし、それなりに場数は踏んでると思うけど……。 (一体、どんな子だったんだろ)  今回告白した子も、元カノも。  どのみち、ある意味度胸があるなぁなんて思うのは、さすがに余計なお世話かな。  でもさ。実際、静は見た目は良いけれど、性格はまぁ淡々としてるし、どこか近寄り難い雰囲気はあるからね。  慣れてしまえばなんてことはないけれど、多分会って間もない女の子には……相当手に余るタイプだと思うんだよ。 (いや……それこそ余計なお世話か)  そんな自分に苦笑しながら、それでも冗談みたいな妄想は止まらない。  告白されて断って……まさかその時に、思い出のハグとか、キスなんて――。 (してないよね……?)  なんて。  俺は案外ばかなのかもしれない。
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