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だって静は女の子の誘いを断っている。
それを、じゃあ俺とどう? なんて――。
……いや、俺の場合は普通に飲むだけだし、そこまで不自然なことにはならない気もするのだ。彼女と違って、普段から宅飲みする程度の仲ではあるんだし。
ただ、それでもやっぱり、今日は年に一度のクリスマスだって思うと――。
……ああ、俺がそんなふうに意識するから、よけいおかしな心境になっているのかな。
別にどんな結果になったっていいじゃないかとも思うのに。
もともと静ははっきりした性格だ。送迎にしろ、食事にしろ、いくら俺が誘ったからって、「今日は結構です」「その日はちょっと」と断ってくることも少なくはない。
だけどそれが今日ならば。
静だって独り、自宅でただ過ごすだけの今夜なら。
ついでのようにたった一言声をかけるだけで、案外素直に応じてくれたのではないだろうか。
そうかと言って、じゃあ今から連絡……という手段も選べない俺は、
(やっぱり……クリスマスだからかな)
勇気を出して告白した女の子の存在もあるし……。
なんて、言い聞かせるように考えてみるけれど、多分本音はそればかりじゃない。
こんな日に誘って乗られたら、それはそれで困惑する。
そのくせ断れたら断られたで、きっとショックを受けてしまう。
クリスマスだからこそ。
だから誘えなかったのだ。
(それって……どうなんだ)
自問しながらも、答えは探さない。探さないし、求めない。
求めないまま、見えそうで見えない気持ちにブレーキをかける。
「寒いなぁ……」
呟いて、再び頭上をそっと見上げる。眼前に広がる夜空には、聖夜に相応しくたくさんの星が瞬いていた。
「……せっかくのクリスマスなのに」
澄んだ冬の空気に、自嘲めいた吐息が紛れる。束の間ふわりと白く漂い、たちまち霞んで消えるその様は、まるで俺の心のようだとちょっと思った。
あれ? と心がざわつくことはあるのに、次にはわりと凪いでいる。
それはいつしか勝手に身についていたものだった。
――それなのに。
「やっぱり、今夜は外で飲もうかな」
それから間もなく、俺は自室の電気を消した。
そんな夜に。
そんな夜に、俺はそうと割り切れる相手を求め――そして朝まで帰らなかった。
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