2.君の傍にいるということ

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 だって(せい)は女の子の誘いを断っている。  それを、じゃあ俺とどう? なんて――。  ……いや、俺の場合は普通に飲むだけだし、そこまで不自然なことにはならない気もするのだ。彼女と違って、普段から宅飲みする程度の仲ではあるんだし。  ただ、それでもやっぱり、今日は年に一度のクリスマス(特別な日)だって思うと――。  ……ああ、俺がそんなふうに意識するから、よけいおかしな心境(こと)になっているのかな。  別にどんな結果になったっていいじゃないかとも思うのに。  もともと静ははっきりした性格だ。送迎にしろ、食事にしろ、いくら俺が誘ったからって、「今日は結構(大丈夫)です」「その日はちょっと」と断ってくることも少なくはない。  だけどそれが今日ならば。  静だって独り、自宅でただ過ごすだけの今夜なら。  ついでのようにたった一言声をかけるだけで、案外素直に応じてくれたのではないだろうか。  そうかと言って、じゃあ今から連絡……という手段も選べない俺は、 (やっぱり……クリスマスだからかな)  勇気を出して告白した女の子の存在(こと)もあるし……。  なんて、言い聞かせるように考えてみるけれど、多分本音はそればかりじゃない。  こんな日に誘って乗られたら、それはそれで困惑する。  そのくせ断れたら断られたで、きっとショックを受けてしまう。  クリスマス(こんな日)だからこそ。  だから誘えなかったのだ。 (それって……どうなんだ)  自問しながらも、答えは探さない。探さないし、求めない。  求めないまま、見えそうで見えない気持ちにブレーキをかける。 「寒いなぁ……」  呟いて、再び頭上をそっと見上げる。眼前に広がる夜空には、聖夜に相応しくたくさんの星が瞬いていた。 「……せっかくのクリスマスなのに」  澄んだ冬の空気に、自嘲めいた吐息が紛れる。束の間ふわりと白く漂い、たちまち霞んで消えるその様は、まるで俺の心のようだとちょっと思った。  あれ? と心がざわつくことはあるのに、次にはわりと凪いでいる。  それはいつしか勝手に身についていたものだった。  ――それなのに。 「やっぱり、今夜は外で飲もうかな」    それから間もなく、俺は自室の電気を消した。  そんな夜に。  そんな夜に、俺はそうと割り切れる相手を求め――そして朝まで帰らなかった。
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