3.君が傍にいるということ

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 六月下旬――梅雨真っ直中(まっただなか)だと言うのに、その日も予報は晴れだった。  ニュースでもしきりに空梅雨という言葉が飛び交っている。確かにこの数日の天候を見ても、言うほどまとまった雨は降っていない。  (せい)に出会って一年――四年生となり、正式に配属となった研究室での課題にいっそう忙しくしていた俺は、必然とサークル活動にも最低限の参加しかできなくなっていた。  おかげで静と顔を合わせる機会も随分減って、学校への行き帰りで拾うことも週に一度、あるかないかという程度になっている。 「……いつのまに」  18時を回り、いつものように研究室棟を出ようとすると、辺りには既にいくつもの水たまりがで来ていた。現在(いま)もばちばちとうるさいくらいの雨音が響いている。残念ながら、予報はあくまでも予報だったということらしい。  建て替えられたばかりの研究室棟(この建物)は密閉率が高く、もともと外界の音はほとんど聞こえない。その上部屋の窓は常時ロールスクリーンで覆われていて、努めて気にしなければ天候の変化には気付けない。  それを知らないわけじゃなかったのに、俺は今朝見た予報を当てにして、午後からは一度も外の様子を確認していなかった。  しかもそんな日に限って、折りたたみ傘すら持っていない。梅雨時であることもあり、いつもなら携帯しているそれも、先日、急な通り雨に困っていた後輩――同じサークルの――に貸したままになっていた。  いつもなら入り口付近のスタンドに放置されたままになっている傘も、今日に限って一本もない。みんな考えることは一緒なのだろう。 「油断したなぁ……」  しばらくポーチで立ち尽くしていた俺は、分厚い雲に覆われた雨空を仰いで呟いた。  するとそこに横から、ぱしゃりと、水を踏む音が――。
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