3.君が傍にいるということ

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「見城くんに、一本貸してあげていいよね?」  俺は釣られるように彼女の目線を追った。  そこに遅れて足を止めたのは、彼女のものよりもふた回りくらい小振りな傘を持つ長身の男だった。  そのそぐわないサイズのせいか、低く持っていた傘に隠れて、顔はほとんど視認できない。それでも服装や上背から、相手が女性でないことだけはすぐに分かった。 (……と、いうか) 「静……?」  俺は顔を確認するまでもなく、次には()の名を口にしていた。 「……見城さん?」  俺の声は、恐らく届かなかったと思う。  静の声だって、雨音に紛れて聞こえなかった。ただその唇が、そう象ったのが見えただけだ。 「なんでここに?」  重ねた問いも、やっぱり彼には届かない。  半ば呆然と立ち尽くしていた俺の横で、莉那が双方を交互に見遣った。 「そう言えば、知り合い……だよね?」 「え……」 「一緒にいるとこ、何度か見かけたことがある気がする……」  莉那は口元に指を当て、記憶を辿るようにして言った。 「ああ、サークルが同じなんだ」 「あーなるほど! それでかぁ」  俺がそう答えると、莉那は納得がいったように破顔した。    何でもないように微笑む彼女にほっとする。  だって本当にそれだけだから。俺と静は単なる友人だ。ついでに言えば、俺と莉那も。  って言うか、むしろこの二人が一緒にいることの方が不自然じゃないか……? 「あっ、そう、それでね。傘の話なんだけど……」  俺が束の間沈黙し、会話が途切れると、莉那は改めて振り返り、そのまま静を指差した。
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