3.君が傍にいるということ

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「えっと、暮科くんのを見城くんに貸してあげて、私と暮科くんが、私の持ってる傘に――」  言いながら、静から俺、次に莉那(自分)、もう一度静へと、順々に指先の向きを変える。 「って、言うのはどうかなぁ……?」  最後に俺に目を戻し、彼女は小さく首を傾げた。  分かってる。それはあくまでも善意での提案だ。いくら俺が彼女を振った相手だからって、それを気にして妙な真似をするような子じゃないのは俺も知っている。普通の友達としてではあるが、付き合いはすでに三年以上。それにまぁ、三人の体格からしてもそれが妥当なところだろうとは思う。  ――思うけれど、 「それだと君が濡れてしまうよ。女の子はやっぱり一人で入った方がいい。なんなら俺が走るのでも構わないし――」  何となくそれは受け入れがたくて、気がつくと俺はそう返していた。  君の気持ちはとても嬉しいよ、とばかりに微笑みを添えれば、彼女の頬が微かに染まる。それを振り払うように、莉那はふるふると頭を振った。 「だ、だめだよっ……いくら見城くんでも、こんな雨の中……! 例え走ったって、絶対一瞬でびしょびしょだよ……?!」 「……まぁ、傘差してても濡れますけどね」 「それなら、せめてちょっとずつでも皆が濡れない方が……っ」  焦ったような莉那の声に紛れて、途中、既に膝までどろどろの静が何か言った気がしたけれど、内容までは分からなかった。 「いや……それでも俺は少しでも莉那が濡れない方がいいな」 「っ……で、でも……」  控えめながらも食い下がられそうになり、俺は微笑んだまま、そっと首を横に振る。 「じゃ……じゃあ、せめて私が小さい方使うから……大きい方を二人で……」 「え……」 「だって、せっかく二本はあるんだから……」 「そう……だけど」  そうだけど……。そうなんだけど――。  それはなかなかに想定外の翻意だった。  元々駐車場までは走れば五分くらいで着くし、どうにもならなければそうするしかないと思ってはいたのだ。確かにこの大雨の中、無謀な気もするが、他に方法がないなら仕方ない。 (……うーん……静と、か………)  でもそれって……静はどうなんだ?  例え俺や莉那が良くても、静自身(本人)は――?  俺は改めて反芻し、窺うように静を見た。 「俺は構いませんよ」  すると応えるように、淡々と彼の唇がそう呟いたのが分かった。
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