3.君が傍にいるということ

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 ちなみに、二人が持っていた傘は、カフェに保管されていた忘れ物とのことだった。天候が急変し、店に残っていた静と莉那が傘を持っていないことに気付いた菜摘が、「これで良かったら」と貸してくれたらしい。  動き出した車の中で、莉那はその後のことも教えてくれた。  そうして貸してくれた傘は、大小極端なサイズで、当然のように小柄な自分が小さい方に手を伸ばしたら、静がそれをさらうようにして大きい方を譲ってくれた、って。そこに彼女はしみじみと続けたのだ。「暮科くんの気遣いすごい」――なんて、俺はそんなの、とっくに知ってるけどね。  静はクールそうな(見た目の)わりに面倒見もいいし、周りのこともよく見えている。それはサークル活動に対する姿勢からもよく分かる。  普段から割り当てられた裏方の仕事だけでなく、誰がやってもいいような雑用まで率先してこなしているし、本番が近くなればなるほど、演者へのフォローもさりげなくしてくれている。加えて、後輩への指導も的確で、かつ要領も良かった。  * *  莉那たちと共に研究室棟を後にした直後、雨脚はいっそう強くなった。  おかげで、駐車場までのおよそ10分強の間、俺たちはただ堪えるようにして黙々と足を進めるしかなかった。 (それにしても、こうまで予報が外れるなんてね……)  思っても、うるさすぎる雨音のせいで口には出せない。水捌けの間に合わないアスファルトの上を流れていく雨水が、さながら浅い川のようだった。  そんな中、大きめとは言え、一つの傘の下で、軽く180を超える上背の男が二人、肩を寄せ合っていた。さすがに十分とは言えず、どちらも外側の身体は随分濡れてきていた。  各々、荷物は内側の腕で抱えるようにして持ち、時折肩がぶつかるほどの距離で、俺の隣を歩いていたのは静だった。
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