3.君が傍にいるということ

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(風が強くないだけまだ良かったけど……)  傘を持っていたのは、多少なりとも背の高い俺の方だ。そして俺は、それをきもち静の方へと余分に傾けていた。少しでも彼が濡れないようにと。  けれども、それも間もなく修正された。  ぽたぽたと、止めどなく雫が落ちる露先を、やんわりと指で押し戻されたのだ。それもちょっと戻しすぎなくらいに。あくまでも俺のことはちらりとも見ず、まるで何事もなかったみたいに――。  そんな彼の仕草に、とくんと小さく胸が鳴った。  俺の意図を、察してのことだったのかは分からない。  分からないけれど、彼は彼で俺が濡れないよう気を遣ってくれたのかもしれない。――思えば、ますます気持ちはざわついた。  本当なら、回りくどく傘を傾けるより、もっとくっついた方が濡れないからと、すぐにでも腰を抱き寄せてしまいたかった。  それは別に、相手が静じゃなくても思っただろうことだけど、そのくせ静だからこそしてはいけない気もした。  ……本当に、なんだろう。この微妙な焦燥感は。  静を前にすると、時々こんなふうに複雑な心境になってしまう。  窺うように静の顔を横目に見ると、驚いたような瞬きに合わせて、睫毛の先が小さく雨粒を弾いたところだった。  いつもは涼しげな目許が、厭わしそうに眇められる。それが何だか妙に艶めいて見えた。 (……疲れてるのかな)  心の中で、自分に言い聞かせるように独りごち、俺は逃げるように視線を逸らした。  ややして、俺たちは校門を抜けた。  駐車場へと続くゆるやかな上り坂の端を、小振りな傘、大振りな傘の順に縦に並んで歩いた。時々、そのすぐ横を車が走り抜けて行ったけれど、幸い、速度は落としてくれていたので水飛沫を被る(駄目押しされる)ようなことはなかった。
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