3.君が傍にいるということ

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(驚いたな……)  こんなことは初めてだった。  今までだって、一緒に出かけた先で「ここは俺が払います」って言われるくらいのことはあったのだ。その時々の食事や、コーヒー(お茶)など、実際に何度か出してもらったこともある。  お金に関して言えば、正直割り勘も必要ないくらいに思っていたけど、それはそれで普通の友達としては不自然な気もして、基本的には静の意思を尊重するようにしていた。  思えば先の連休に、最寄りの駅まで送って行ったこともあり――。まぁあれだって、俺が出かけるタイミングと重なったからだけど……まさかそのお礼とでも言うつもりだろうか。  そう考えると、おかしなことでもないのかもしれない。  いや、でも……。  あの時はあの時で、わざわざ帰省先のお土産を(マンション)まで持って来てくれたし……。 (母からです、とは言ってたけど)  だけど、例えその時のお礼だったとしても、こんな――こんな誘い方、何だか違和感しかない。 (何かあったのかな……?)  澄ました顔を続けながらも、気持ちはどうにも落ち着かない。  自分でもどうかと思うほど、恥ずかしくなるほど心臓が音を立てている。 「お世話だなんて……どうせいつもついでなのに」  気を取り直すよう微笑んでみるけれど、それもなかなか上手くいかない。それでもどうにか笑みを貼り付けた。  窺うようにミラーで確認すると、幸い、静の視線は既に俺から外れていた。口元を押さえるようにして頬杖をつき、少しだけ伏し目がちに、そうしてただ窓外を流れる景色を見詰めている。  内心俺はほっとした。  ほっとしたけど、いまだどこか居た堪れないような心地は拭えず、取り繕うように言葉を継いだ。 「でも、どうして急に? 珍しいね。いままでそんな話、聞いたことなかったような……」  親から嗜好品が届いた、なんて。  そもそも、静はまだ19だし……って、それはまぁ、今年の誕生日が来るまでだとしても……。 (そう言えば、静の誕生日っていつなんだろ)  気まずい現状から少しでも意識を逸らすためにも、努めて別のことを考えてみる。 「何かいいことでもあったのかな?」 「いえ、もうすぐ、誕生日だからって」  だけどそれは逆効果だった。 「そ……うなの? それは、静の……だよね?」 「はい」 「そ……。――え、いつ?」 「七夕です。七月七日」  来週末じゃないか!  俺は思わず上げそうになった声を慌てて飲み込んだ。
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