3.君が傍にいるということ

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 言われてみれば、確かにあの日、静はアリアのショップカードを手に取っていた。  いつもは触れることもないそれも、次のバイト先候補を考えてのことだったなら納得もいく。  そして実際目にしてみると、アリアでの仕事は静にとても合っているように思えた。  制服――白シャツに黒いリボンタイ、カマーベスト、黒いパンツに同色のギャルソンエプロン――もとても様になっていたし、カフェでのバイト経験があるせいか、接客に関しても特に臆することなくできているようだった。  強いて言うなら少々無愛想なところが心配だったりもしたけれど、さすがにそこは切り替えているのか、営業スマイルくらいはちゃんとできていた。控えめではあるけれど、対面した女性が頬を染めることもあるような、目を引く笑顔だった。 「とにかく……今日はありがとうございました」  いつの間にかずれていた思考を、静の声が引き戻す。  瞬いて焦点を合わせると、静が小さく頭を下げたところだった。  いや、ちょっと待って。  とにかくって……。とにかくって、さっきのお誘いの話はどこに行ったの。  まさか俺の空耳? 空想? ――そんなばかな。  俺は急くように言葉を探した。 「なので、まぁ……考えといてください。良かったら、ですけど」 「え?」 「だから……さっきの話。都合のいい日があれば、また教えて下さい」  良かった、現実だった。  俺が口を開くより先に、顔を上げた静がドアの方に目を向けながら言った。
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