3.君が傍にいるということ

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 俺は密やかに息をつく。  それから、はっとしたように静を見返して、 「誕生日……」  その言葉は、考えるより先に口を突いていた。  「え?」と、静が驚いたように俺を見る。 「俺、その日空いてる」 「は……?」 「来週の君の誕生日(土曜日)。静は? その次の日。日曜はなにかある?」 「……日曜もバイトが。遅番ですけど」 「遅番なら、前日の夜大丈夫だよね?」 「はぁ……まぁ。でもその日も遅番なんで、帰ってくるの遅いですよ」 「いいよ。日が変わっても待ってる」 「そこまで遅くはならないですけど。……店長が、18歳以上でも学生は10時までって決めてるみたいで。なので、家に着くのは半とか――」 「十分(じゅうぶん)」  そこまで畳みかけるように言って、俺は駄目押しのようににっこり微笑んだ。  静はどこか気圧されたふうな反応だったけど、それでもはっきり断ってくるようなことはない。だから俺は引かなかった。気付かないふりをした。 「じゃあ、来週の、その日に……」  どこか戸惑った様子ながらも、静は頷き、再びドアへと向き直った。 「うん。楽しみにしてる」  俺がそう返すのを横目に、ドアにかけられていた手が動く。  けれどもドアは開かなくて――。 「ああ、ごめん」  俺は思い出したように施錠を解いた。  そんなことにすら気が回っていなかった自分に、らしくないな、と苦笑しながら。
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