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* * *
「静はほんとそれ好きだね」
彼がワイン好きなのはよく知っていた。だから俺は、余計にそれを口実に使った。そしてその誘いに彼が乗れば――その晩、俺は必ずその身体を開かせる。
あれ以来、俺たちは何となくそう言う関係になっていた。
「もう一本、別のもあるから後で開けよう」
残り少なくなった赤ワインの瓶を見遣って、俺はにっこり微笑みかける。
彼はソファの端に浅く座り、緩慢にグラスを揺らしていた。それを時折ゆっくり傾け、悪くないとばかりに微かに目を細めている。
(……可愛い、静)
だからと言って、別に静は恋人じゃない。
俺は結局気持ちを伝えていないし、彼に何かを言われたこともなかった。
そのくせ俺から逃げないでいてくれるのは、もしかしたらセフレくらいには思ってくれているからだろうか。――と、そう思うには、態度も言葉も曖昧で、まるで割り切れているようには見えないんだけど。
(……)
グラスの底に薄く溜まっていた赤い液体が、するりと彼の口内に吸い込まれていく。ややして、のど仏がこくんと上下した。
相貌も佇まいも、変わらず涼しげなのがかえって艶かしい。
「――静」
俺はぽつりと名を呼んだ。それから不意に彼の手首に触れる。
空になったグラス片手に、再びワインの瓶へと伸ばされようとしていたその手を掴み、そのまま引き倒すようにしてラグの上へと縫い止める。
「ワインもいいけど……その前に」
「……っ」
俺の相手もしてよ……?
そして内緒話のように囁きながら、肉付きの薄い身体を押さえ付け、急くように首筋へと顔を埋めた。
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