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飲み始めてしばらくは、まったくいつも通りの――健全な話しかしていなかったのだ。
静がワインを口実に俺を誘ってくれたのだって、実はゼミについて聞きたいことがあったからだとか。
あの雨の日、静が莉那と一緒だったのも、たまたまカフェでその話が出たからだったとか。
正直、それを聞かされたときはちょっとショックだったけど……まぁそれはそれ、結果オーライだと思うことにして。
だけど、それから食べるのもそこそこに酒を進めて、二時間ほどが過ぎた頃だったかな。
その頃を境に、静の空気がどこかふわふわとしてきて……。それは多分、気付かない人は気付かない程度の微妙な違和感だったけど、俺にははっきり分かってしまった。
ああ、結構酔ってるなって。
そこから流れが変わったのだ。
……まぁ、変えたのは俺なんだけど。
「――ねぇ、静」
いつもよりゆっくりと瞬き、手の中のグラスを見つめる時間が長くなってきた静の姿に、俺は試すように声をかけた。
「静って今まで……どんな人と付き合ってたの?」
それに対して静は、最初こそ「はぁ?」と冷ややかな眼差しを返してきたけれど、途切れることなく注ぐワインと共に何度か水を向けていたら、いつしかぽつりぽつりと、諦めたように答えてくれるようになった。
* *
(あぁ、やっぱりお酒の力ってすごいな)
静にしても、俺にしても。素面じゃ絶対にこうは行かなかっただろう。
仮に何かおころうとも、お酒のせいにすればいいって――覚えてないことにすればいいって、そう思えるのも大きいのかもしれない。
「ちなみに初体験の相手とは……もうずっと会ってないの? 連絡もなし?」
空になっていた俺のグラスに、静がワインを注いでくれる。その仕草を目で追いながら、思い出したように俺は訊ねた。
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