4.君を知りたいと思うのは

4/7

199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
 飲み始めてしばらくは、まったくいつも通りの――健全な話しかしていなかったのだ。  静がワインを口実に俺を誘ってくれたのだって、実はゼミについて聞きたいことがあったからだとか。  あの雨の日、静が莉那と一緒だったのも、たまたまカフェでその話が出たからだったとか。  正直、それを聞かされたときはちょっとショックだったけど……まぁそれはそれ、結果オーライだと思うことにして。  だけど、それから食べるのもそこそこに酒を進めて、二時間ほどが過ぎた頃だったかな。  その頃を境に、静の空気がどこかふわふわとしてきて……。それは多分、気付かない人は気付かない程度の微妙な違和感だったけど、俺にははっきり分かってしまった。  ああ、結構酔ってるなって。  そこから流れが変わったのだ。  ……まぁ、変えたのは俺なんだけど。 「――ねぇ、静」  いつもよりゆっくりと瞬き、手の中のグラスを見つめる時間が長くなってきた静の姿に、俺は試すように声をかけた。 「静って今まで……どんな人と付き合ってたの?」  それに対して静は、最初こそ「はぁ?」と冷ややかな眼差しを返してきたけれど、途切れることなく注ぐワインと共に何度か水を向けていたら、いつしかぽつりぽつりと、諦めたように答えてくれるようになった。  * * (あぁ、やっぱりお酒の力ってすごいな)  静にしても、俺にしても。素面じゃ絶対にこうは行かなかっただろう。  仮に何かおころうとも、お酒のせいにすればいいって――覚えてないことにすればいいって、そう思えるのも大きいのかもしれない。 「ちなみに初体験の相手(そのひと)とは……もうずっと会ってないの? 連絡もなし?」  空になっていた俺のグラスに、静がワインを注いでくれる。その仕草を目で追いながら、思い出したように俺は訊ねた。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加