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20時近くになり、各々お腹を満たした後は、いわゆるフリータイム。
各自好きなドリンクを片手に、部室棟の軒下や、広場脇のベンチ、芝生の上に直接座り込んだりして、それぞれ適当な部員と時間を過ごす。
普段あまり話さないような相手とも、この時には自然と接点ができ、結果、部員同士の結束がより強まったりもするのだ。……その延長で、意外なカップルが誕生することもあるけどね。
「……ね。ほら、見て」
軒下の段差に座ってノンアルコール飲料を飲んでいると、含むような笑みを浮かべながら、明日花が傍へとやってきた。
彼女の手には缶ビール。それを豪快に呷る姿は、ボーイッシュなショートカットと相俟って、どこか悪戯好きな少年のようにも見える。
彼女がちらりと指差したのは、広場脇に置かれたベンチの一つ。
そこには例の〝あの子〟と、人一人分空けて横に座る静の姿があった。
俺は瞬き、小さく笑う。
「普通に裏方の話とかじゃない?」
「違うって。……あれ、告白してる。絶対」
やけに自信満々に言い切る明日花は、俺の隣には座らない。立ったまま、時折静の方を見ては、「やってらんないわ」とばかりにビールを呷る。
良くも悪くも裏表のない彼女の言葉は、まるで思うままを口にしているだけのようにも思える。けれども、その勘はしばしば当たるから侮れない。
「暮科くんどうするのかなー。あの子って派手な外見のわりに真面目だもんね。断るかな」
加えて、人もよく見てる。だてに副部長についてはいないらしい。
「……あ。あれ――は、振られたな。ざんねーん」
「……ほんとに?」
「間違いないって」
そうこうしていると、例の子は持っていた缶を両手で握って立ち上がり、ペコリと頭を下げて静の傍から立ち去った。
残された静は、自分の缶ビールをゆっくり呷り――そのまま空になるまで飲んだようだ。
それからおもむろに煙草を取り出すと、咥えたその先に百円ライターで火を点ける。そのまま空き缶を灰皿代わりにしばらく紫煙を燻らせる姿は、煙草を覚えたばかりにしては随分さまになっているように見えた。
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