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彼の手を離れたグラスはテーブルの上をゆっくり転がり、間もなく瓶に引っかかって止まった。
下に落ちなかったことには正直ほっとした。だって俺はいま彼に触れるのに忙しい。どんなに派手に割れたって、赤い雫が飛んだって、掃除なんてすぐにはできない。
――本当に、どこまでも勝手な男だ。
「明日は日曜日だし……確かバイトも遅番だって言っていたよね」
「ぃ……っ、ん……!」
羽織っていたカーディガンの下へと指を差し入れ、シャツの上から胸をまさぐる。間近の耳朶に甘く歯を立てながら、探り当てた突起を爪弾くと、ぴくりとその肩が小さく震えた。
その反応に笑みを滲ませながら、次にはその先を痛いくらいに捻り上げる。息を詰めるように引き結ばれた唇の合わせに舌を這わせれば、逃れたいように僅かに顔を背けられた。
「待っ……」
「待てない」
言わせないとばかりに言葉を被せ、力任せにシャツの合わせを開く。
そうすれば彼は諦めたように目を閉じるのだ。知っているから俺は彼の声を聞かない。
それはあの夜――俺が初めて彼の気持ちを無視して抱いた日からずっとそうだった。
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