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俺は無意識にほっとしていた。
知らず入っていた力が抜ける感覚がして、俺は誤魔化すように手の中の缶に口を付ける。
「そういえば、見城くん。院の結果って、もう出たのよね?」
「あぁ……うん。出るには出たよ」
「出るには出たって……どういうこと? 合格は合格なんでしょ?」
「それはまぁ、おかげさまで」
明日花に視線を戻して頷くと、彼女は近くの支柱に寄りかかったまま、不思議そうな顔をした。
「合格したのに、迷ってるの?」
「迷ってるっていうか……実はまだ、説得できてなくて」
「説得って、親を? ってこと? 進学って普通喜んでくれるもんじゃないの? 見城くんち、お金に困ってるわけでもなさそうなのに」
あっけらかんとそう言われ、俺は思わず肩を揺らす。
いや、まぁ、確かにね。普通はそうなのかなって俺も思うよ。
だけど俺はもう、仕事の予定が入ってて……。日本に一人で帰国するのも、元々4年、その後はアメリカに戻るって条件付きだったしね。
とは言え、今のところ両親が新規で入れてきたのは在宅でもできる翻訳の仕事だし、モデルの仕事の方も、まだそこまで詰まってないから、その時だけ帰るとかで対応できそうなんだよね。
だから、俺がちゃんとそれをこなせれば……必ずこなして見せるって、両親に伝えられれば。大学院で勉強することも、絶対無駄にはならない、それどころか、今後の仕事にも活かせるんだってしっかり説得できれば――。
そうすれば、多分許してくれるとは思うんだ。さすがに、その二年以上は難しいだろうけれど。
「ふーん。セレブも色々大変なのね」
「セレブって……言われるほどのものじゃないよ」
「何言ってんの? 私から見たら十分セレブだわ」
明日花は可笑しいように笑って、ビールの残りを一気に飲み干した。
「見城くん、お代わりは?」
「大丈夫。まだあるから」
「え、っていうか、ノンアルなの?」
支柱に預けていた身体を起こし、明日花が俺の手元を指差してくる。
それに俺は、「今日車だから」と笑って返した。
「あ――そっか。そう言ってたね。ごめんね、急に企画しちゃって」
「明日花のせいじゃないよ。分かってて俺が車にしたんだし」
だから気にしないで、と笑みを深めると、明日花もほっとしたように笑ってくれる。
「まぁ、また企画するから。学祭までに、せめてもう一回は。その時は飲めるようにしてきてよね」
最後に言い置くように言われて、俺が軽く片手を上げると、彼女は満足したように即席ドリンクコーナーへと去っていった。
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