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持っていると思っていた煙草がポケットになく、俺は缶を片手に持ったまま二階へと続く外階段を昇った。
部室のロッカーから煙草とジッポを取り出すと、早速抜き出した一本を口に咥えながら廊下に戻る。周囲に誰もいないのをいいことに穂先に火を点し、そのまましばし手すりに凭れて眼下を一望した。
好き好きに歓談している端で、静はまだ先ほどのベンチに座ったままだった。その隣には先ほどとは別の部員が座っている。今度は一つ下の男。
どうやら静の持つ煙草について話しているらしく、その手元を指差したり、借りたパッケージを眺めたりしながら笑っている。
静は年下は苦手だと言っていたけれど、その一方で年下に慕われるタイプであるようにも見える。
(もしかして、あれは本音ではなかったのかな)
思ってしまうほど、静の対応も誠実だ。厭うどころか、より親切で、いっそう親身になってあげているようにも見受けられた。
静は短くなった煙草を空き缶の中に落とし、新たな煙草を口端に添える。
細く長い指先が、チープなライターを難なく操り、点された紅点が束の間僅かに明るくなった。
頷いたり、笑ったりするのにつれて、それが蛍みたいに揺れ動く。
(……似合ってるな)
煙草。
煙草を覚えた誕生日からまだ一月も経っていないのに。
状況はどうあれ、わざわざ教えてくれと言ってきただけあって、静はそのまま喫煙するようになった。どうやら昔から興味はあったらしく、戯れに吸ったりはしてこなかったものの、二十歳になったら始めてみようと決めていたらしい。
俺の愛煙している煙草の香りが気に入ったからと、ひとまず銘柄も俺と同じものがいいと言った。
軽いとは言えないそれを試しに一本渡してみると、横で俺が示した所作に倣ってそれに火を点け――ようとしたものの、慣れないジッポの扱いには思いの外手間取ってしまう。そんな彼の手の中から、俺は笑ってそれを抜き取ると、点した小さな炎を静の顔へと近づけた。
静は少しだけばつが悪いように瞳を揺らしながらも、大人しく咥えていた煙草に指を添え、間もなくそこから火を取った。
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