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……見た目がいいと、なんでも絵になるんだな。
白い筒の乗った薄い唇、それに触れる指にすら目を奪われる。彼の持つ雰囲気のせいもあるのかもしれないが、少なくとも俺には最初からそう映った。
けれども、それからほどなくして、静は堪えかねたように咳き込んだ。予想通りと言うべきか、いつかの部室でのように「苦い」とこぼしつつ、それでも懲りずに煙草を咥えるその姿は、どこか強がっているようでもあり、
(……あれはちょっと)
それからようやく紫煙を吐き出し、少しだけ満足そうに目を細めた瞬間の表情は、正直……あまりに可愛くて、今でも思い出しては笑ってしまいそうになる。
気を良くした俺は、そのまま買い置きしていた煙草をワンカートンプレゼントして、ついでにジッポライターも押しつけようとした。
ジッポはいくつか持っていた中から、少しでも使いやすいものを――と思って選んでみたんだけど、残念ながらそれは受け取ってもらえず……。理由は見るからに新品だったのと、「そんな高そうなの貰えません」って。
それならと俺が次に選んだのはそこそこ使い込んでいたもので、「これなら中古だし」「せっかく誕生日なんだから」って言い募ったら、最後にはなんとか受け取ってくれた。……まぁ、そのわりに彼が使っているのは、あれからずっと百円ライターなんだけどね。
途中、誕生日だから何……って顔されたようにも見えたのは、やっぱり俺たちが特別な間柄ではないからなんだろうな。
そう思うとちょっと寂しくもあったけれど、どのみち俺の希望は通ったわけだから、これもまた幸運だったと思うべきなんだろう。
「ぬるい……」
いつのまにかぼやけていた視軸を瞬いて合わせ、俺は持っていた缶の残りを飲み干した。
そこにそこそこ伸びていた煙草の灰を落として、思い出したように広場の方へと目を遣った。
「見城さん、これ……藤崎さんが」
「……!」
遠くを見るのと入れ替わるように、視界の端に人影が入る。
それと共に聞こえてきた声に、俺は弾かれたように顔を向けた。
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