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俺はアイスコーヒーをブラックのまま一口飲んだ。それに釣られるように莉那も数回、アイスティーを吸い上げる。
「そう言われると……見城くんとちょっと似てるのかなって思っちゃうね。規模は違いすぎるけど」
莉那は気恥ずかしそうに気持ち眉を下げ、それを誤魔化すみたいにグラスを揺らした。
そんな彼女の表情に、思わず笑みが滲んでしまう。
こうして見ると、彼女はやはり可愛らしいと思う。優しいし、親切だし、いまだに彼氏がいないのが不思議なくらいだ。
俺があんなふうに断った後も、変わることなく絶妙な距離感で接してくれていて、それをやけに心地よく感じることもあった。
……こんなことなら、思い出のキスくらい何でもなかったかもしれない。
と言うか、俺は何でしなかったんだっけ?
……あぁ、そうだ。
あれは静が――。
「莉那、今夜空いてる?」
「え?」
考えてみれば、俺はしばらくそういう場所にも行っていなかった。
時間に追われていたこともあるけれど、少しでも時間がとれるなら静と飲みたいと思っていたからだ。
だけど結局、その彼ともサークルの懇親会以降、飲めたのは一度きりで、それも翌日に響くと困るからと、本当に一杯しか付き合ってもらえなくて……。
結果彼が酔うことはなく、話題もサークルのことが主で、なんとも健全なひとときを過ごしただけだった。
それもあって、余計に人恋しくなっていたのかな。何となく、消化不良な日々が続いていた――そんな理由で?
……やっぱり、こんな風に誘うのはルール違反だろうか。
思ったものの、
「あ……空いてる」
戸惑いながらも、嬉しそうに頷いた莉那に、俺は「じゃあ、後で連絡するね」と、引き返すことなく耳打ちしてしまった。
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