*6.深い意味はないはずで

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 *  *  *  思えば莉那がアリアに行きたいと言った時点で、気づくべきだった。俺と彼女の、気持ちの齟齬に。  アリアでしばらく過ごした後、そろそろ場所を……と思っていた俺に、莉那は「もう少しアリア(ここ)で飲もうよ」と言った。「て言うか、もうこのままここで」って。  俺は思わず「ここで?」と訊き返した。それに彼女は頷いた。どこかさっぱりしたような表情で、「うん、ここで」とにこりと微笑んで。  確かにアリアには酒も豊富だ。それに伴うサイドメニューも多い。  だからって、これは……この流れは、 (……これは俺、振られたかな)  思い至るとさすがに気恥ずかしくもなったけれど、そのくせ、どこかほっとしている自分も否定できなかった。  やっぱり、後に響くかもしれない関係はやめた方がいい。今の関係が良好であるならなおさらに。  ある意味彼女のおかげでそう再確認できた俺は、快く彼女の希望を受け入れることにした。  ……早まらなくて良かった。  心底そう思いながら。  時計を見ると、すでに19時を回っていて、その頃には静の姿も見なくなっていた。本日のバイトは、もう終わってしまったのかもしれない。  *  *  *  彼女が甘めのカクテルを飲んでいたのに対し、俺の前に置かれていたのはノンアルコールワインだった。  自宅までそう距離もないし、一旦車を置きに行くこともできたけど、そうしなかったのは、せめて彼女を家まで送るくらいはさせてもらおうと思ったから。  彼女にもう、その気がないことはわかっていたしね。  話題は学校のことが多かった。それから、将来の話。けれども、飲み始めて一時間ほど経ったころから、少々風向きが変わった。  莉那はおもむろに瞬くと、幾分据わった目で俺を見た。 「見城くんは、ずっと恋愛しないつもりなの?」    それは今までにも何度も言われてきた言葉だった。 「好きな人……いないの? 気になる人とか……」  なのに、どうしてだろう。  今夜はいつもみたいに即答できない。  今更莉那を口説くわけでもないんだから、ありのままを言えばいいだけのことなのに。
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