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* * *
思えば莉那がアリアに行きたいと言った時点で、気づくべきだった。俺と彼女の、気持ちの齟齬に。
アリアでしばらく過ごした後、そろそろ場所を……と思っていた俺に、莉那は「もう少しアリアで飲もうよ」と言った。「て言うか、もうこのままここで」って。
俺は思わず「ここで?」と訊き返した。それに彼女は頷いた。どこかさっぱりしたような表情で、「うん、ここで」とにこりと微笑んで。
確かにアリアには酒も豊富だ。それに伴うサイドメニューも多い。
だからって、これは……この流れは、
(……これは俺、振られたかな)
思い至るとさすがに気恥ずかしくもなったけれど、そのくせ、どこかほっとしている自分も否定できなかった。
やっぱり、後に響くかもしれない関係はやめた方がいい。今の関係が良好であるならなおさらに。
ある意味彼女のおかげでそう再確認できた俺は、快く彼女の希望を受け入れることにした。
……早まらなくて良かった。
心底そう思いながら。
時計を見ると、すでに19時を回っていて、その頃には静の姿も見なくなっていた。本日のバイトは、もう終わってしまったのかもしれない。
* * *
彼女が甘めのカクテルを飲んでいたのに対し、俺の前に置かれていたのはノンアルコールワインだった。
自宅までそう距離もないし、一旦車を置きに行くこともできたけど、そうしなかったのは、せめて彼女を家まで送るくらいはさせてもらおうと思ったから。
彼女にもう、その気がないことはわかっていたしね。
話題は学校のことが多かった。それから、将来の話。けれども、飲み始めて一時間ほど経ったころから、少々風向きが変わった。
莉那はおもむろに瞬くと、幾分据わった目で俺を見た。
「見城くんは、ずっと恋愛しないつもりなの?」
それは今までにも何度も言われてきた言葉だった。
「好きな人……いないの? 気になる人とか……」
なのに、どうしてだろう。
今夜はいつもみたいに即答できない。
今更莉那を口説くわけでもないんだから、ありのままを言えばいいだけのことなのに。
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