*6.深い意味はないはずで

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「莉那……酔ってるね?」  答えられないまま、覗き込むように見つめ返すと、莉那は僅かに唇を尖らせた。 「今そういうのは求めてないの」 「あれ……手厳しいな」 「そうじゃなくて、私が聞きたいのは、見城くんのホントの気持ちよ」 (本当の気持ち……)  俺は一旦受け止めるよう身を引き、グラスに口を付けた。  けれども、どう言われても答えは一つだった。  俺は当面恋愛はしないし、特別な相手を作るつもりもない。今はそれしか答えられない。 「そういう莉那はどうなの。莉那もずっと一人だよね? こんなに可愛らしいのに」 「……ずるい」  ぽつり、と、そうこぼした莉那もグラスに口を付けたところだった。おかげでよく聞き取れない。 「え……?」  問い返すと、莉那はぐっとグラスを呷り、それから勢いよくそれを天板に戻した。 「恋愛、する気がないのは知ってる……。でも、好きな人は……その人を好きになるってことは、どんなに我慢したって止められないからね……!?」  珍しく声を荒げた莉那に、その言葉に、俺は痛いところを突かれたような気分になった。  ――好きになることは、止められない? 「ねぇ、聞いてる?! 見城くん!」 「聞いてるよ……莉那、ちょっと落ち着いて」  俺は自分の動揺を隠すように、努めて冷静に声をかける。 「落ち着いてるわよ!」  まだそれなりに客がいる時間で助かった。そうでなければ、そんな莉那の声は店中に響き渡っていたかもしれない。  俺が水のグラスを差し出すと、莉那は受け取ったそれを一口だけ嚥下して、 「だって時々……辛そうに見えるんだもん」 「……え?」 「ずっと見てきたから分かるの」  次には一転し、ぽつりぽつりと口にする。 「見城くんはそんなことないって言うかもしれないけど……。本当は、気になってる人がいるんじゃないかって」 「そんなこと……」 「それが誰かまでは分かんないよ? 私に分かるのは、その相手が私じゃないってことだけ……」
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