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(……ごめんね、莉那)
その言葉や表情から、痛いほど莉那の気持ちがが伝わってくる。薄々そんな気もしていたけれど、莉那はまだ俺のことを想ってくれていたらしい。
そんなふうに思っていながら誘うなんて、俺は本当に最低だよね。
「……莉那、俺はね」
俺はゆっくり瞬くと、彼女を見つめたまま言った。
「俺は欲張りだから、一度手に入れたものは、きっと手放せなくなる。独占欲ばかり強くて、自制心は弱い。本気でハマると、相手も自分もだめにするタイプなんだよ。
だからそうならないよう、予め何本も線を引いておくんだ。その上で手を出す時は、最初から手放すつもりだし、始めるにしたって、いつも終わりを見てる。
逆を言うと、そう思えない相手には近づかない。俺が本気になったら困るから。……まぁ、これは恋愛に限らずだけど。
――だから、恋愛はしない」
少なくとも、自分に余裕ができるまではね。
そんな自分本位な俺に、誰も付き合う必要なんてないし、付き合わせちゃいけないと思うから――。
「それが俺の、“本当の気持ち”だよ」
その言葉に、莉那は一瞬唇を震わせて、けれども次には納得したような――諦めたような表情を浮かべた。
「私に手を出さないでいてくれたのも、そういう理由からなら……許してあげる」
最後にそう、強がるように揶揄めかして、彼女は笑った。
その目が薄っすらと潤んでいたのは、お酒のせいばかりではないかもしれない。
それに気づかないふりをして、俺はただ微笑んだ。
* * *
一人自宅に戻ってから、改めてグラスにワインを注いだ。
それを窓際に立って揺らしながら、思い返していたのは莉那が車を下りる時に残していった言葉。
「それでも、人によっては嬉しいと思うな。絶対先がないって分かってても……それで少しでも見城くんの傍にいられるなら」
彼女の口ぶりはまるで他人事のようだったけれど、そのいくらかは彼女自身の気持ちだったのではないだろうか。
そう感じるからこそよけいに思った。
手を出さなくて本当に良かったって。
……だけど実際、そんなふうに思ってくれる人がどれくらいいるだろう。
本気にならないのを前提とした、セフレとも言い難い、期間限定の関係?
結果、それが拗れそうになったら――そこに気持ちが芽生えたら――、一方的に俺が切るんだよ。逆に俺がそうなりかけたら、相手が切ってくれなくてはならない。
そんな勝手な、都合のいい契約のような話、一体誰が……。
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