*6.深い意味はないはずで

7/16

199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
(……ごめんね、莉那)  その言葉や表情から、痛いほど莉那の気持ちがが伝わってくる。薄々そんな気もしていたけれど、莉那はまだ俺のことを想ってくれていたらしい。  そんなふうに思っていながら誘うなんて、俺は本当に最低だよね。 「……莉那、俺はね」  俺はゆっくり瞬くと、彼女を見つめたまま言った。 「俺は欲張りだから、一度手に入れたものは、きっと手放せなくなる。独占欲ばかり強くて、自制心は弱い。本気でハマると、相手も自分もだめにするタイプなんだよ。  だからそうならないよう、予め何本も線を引いておくんだ。その上で手を出す時は、最初から手放すつもりだし、始めるにしたって、いつも終わりを見てる。  逆を言うと、そう思えない相手には近づかない。俺が本気になったら困るから。……まぁ、これは恋愛に限らずだけど。 ――だから、恋愛はしない」  少なくとも、自分に余裕ができるまで(このさき、数年)はね。  そんな自分本位な俺に、誰も付き合う必要なんてないし、付き合わせちゃいけないと思うから――。 「それが俺の、“本当の気持ち”だよ」  その言葉に、莉那は一瞬唇を震わせて、けれども次には納得したような――諦めたような表情を浮かべた。 「私に手を出さないでいてくれたのも、そういう理由からなら……許してあげる」  最後にそう、強がるように揶揄めかして、彼女は笑った。  その目が薄っすらと潤んでいたのは、お酒のせいばかりではないかもしれない。  それに気づかないふりをして、俺はただ微笑んだ。  *  *  *  一人自宅に戻ってから、改めてグラスにワインを注いだ。  それを窓際に立って揺らしながら、思い返していたのは莉那が車を下りる時に残していった言葉。 「それでも、人によっては嬉しいと思うな。絶対先がないって分かってても……それで少しでも見城くんの傍にいられるなら」  彼女の口ぶりはまるで他人事のようだったけれど、そのいくらかは彼女自身の気持ちだったのではないだろうか。  そう感じるからこそよけいに思った。  手を出さなくて本当に良かったって。  ……だけど実際、そんなふうに思ってくれる人がどれくらいいるだろう。  本気にならないのを前提とした、セフレとも言い難い、期間限定の関係?  結果、それが拗れそうになったら――そこに気持ちが芽生えたら――、一方的に俺が切るんだよ。逆に俺がそうなりかけたら、相手が切ってくれなくてはならない。  そんな勝手な、都合のいい契約のような話、一体誰が……。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加