*6.深い意味はないはずで

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 静は無言で俺の方へと顔を向けた。  そのままゆっくり近づいてきて、「?」と僅かに首を動かす。  俺は一歩踏み出すと同時に腕を伸ばし、静の後頭部に手を添えた。 「ん」  そっと引き寄せるようにして促しながら、顔を近づける。――正しくは、お互いが咥えた煙草の穂先を。  俺のポケットにはジッポが入っている。それは覚えていたけれど、 「――…」  俺はあえてそれを黙殺し、触れ合わせた先端を目線で示した。  ここから火をとればいい。  子供が花火から花火に火をもらうように。  戸惑いの色を浮かべつつも、その意味をすぐに理解したらしい彼は、大人しくそれに従い、そこに火が移るのを待った。俺に頭を押さえられたまま――。  突き合わせた筒の先で、小さな紅点が明滅する。  前髪が掠めるほどの距離で、彼の視線は煙草の火に向いている。伏せ気味にされたけぶるような睫毛も、口元に添えられた指も、微かに震えて見えるのは気のせいだろうか。  こういうのは初めてで、緊張しているのかもしれない。それとも、――意識しているのかな。 (何を?)  思ったとたん、触れてはいけないものに触れてしまったみたいな気分になって、俺はとっさに手を退いた。  静は傾けていた上体をゆっくり起こし――(のち)、互いの口元からふっとこぼれ出る紫煙。  ほっとしたような、どこか気恥ずかしそうな表情で、静が申し訳程度に頭を下げる。  ――かわいい。 「……!」  気がついたときには、再び手を伸ばしていた。
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