*6.深い意味はないはずで

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「ん……、っ……!」  足元に転がる2本の煙草。重なるように落ちたそれを俺は片手間に踏みつける。  頬を掠め、襟足の髪を掴むようにして上向かせれば、同時に被せた唇から、苦くて甘い味が伝わってくる。 (静……)  心の中で名を呼びながら――口づけの角度を変えながら、何の穢れもない真っ白なテーブルの上に彼の身体を押し倒す。  戦慄くように緩んだ合わせから、隙を突くようにして舌先を滑り込ませる。静の瞳がひときわ大きく見開かれ、全身がびくりとこわばったのが分かった。  掴んだ両手首を天板の上に押さえつけたまま、確かめるように口内をなぞっていく。  俺と同じ煙草の香りが鼻に抜ける。萎縮する彼の舌をさらに追い詰め、押さえつける。唾液ごとかき混ぜるようにしてくすぐると、次にはぎゅっと目を閉じられた。  彼の動揺が嫌でも伝わってくる。そこには恐怖心もあるのかもしれない。  だけどそれにしては抵抗されない。したくてもできないだけかもしれないが、その時の俺にはもうどっちだって良かった。  ただ、思ったほど拒絶されない――その事実だけ。それだけで、すべてを受け入れられたような錯覚に陥っている。  だってほら。  現に静は応えてくれた。  一方的に蹂躙していた舌先が、おずおずと俺の方へと伸ばされる。うっすらと開いた双眸が、熱を浮かせて潤んだ眼差しが俺を捕らえる。  ――強い高揚感が身体を包む。頭の芯を溶かしていく。  名残惜しいように唇を離すと、細い銀糸が互いを繋ぎ、やがてふつりと途切れて消えた。 「見城、さ……」  甘く掠れた静の声。初めて耳にするそのいじらしさに、思わず閉口してしまう。  俺は答えず――答えられず――吸い寄せられるように静の首筋に顔を埋めた。
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