*6.深い意味はないはずで

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(だって俺は……)  俺は顔を上げ、もう一方の彼の手も解放する。これで抵抗しないのを俺のせいにはできなくなる。  ……それでも静は何もしなかった。ただことさらに色濃く肌を上気させるだけだ。  静の視界の端に入ると知った上で、俺は見せつけるように自身の指に舌を這わせた。唾液をまぶすようにしながら、一方の手で彼のベルトを緩めていく。 「……腰、上げて」  指を口元から離すのと同時に囁くと、彼が好んで履いているラフなジーンズを引き下ろし、足元に落とした。やはり音はしなかった。 「……っ」  静は顔を横向けたまま、自分で自分の口を塞ぐように片手を押し当てる。 (声、聞かせてほしいのに)  もっと、君のいろんな声が聞きたい。いつもの冷静な声ももちろんだけど、それとは違う声も聞かせて欲しい。  ……そう願うのはおこがましいだろうか。  思いながらも、俺は彼のその手を外させたくて腕を伸ばす。  やっぱり諦められなくて。この不思議と音のない空間で、唯一聞こえる彼の声が、どうあっても聞きたくてたまらない。  ……だって俺は。  俺はもう、きっとずっと前から、君とこうなりたかった。君をこの手で、()かせたかった。  そうはっきり自覚した時、傍らにあった灰皿が床へと落下した。俺の手が当たったらしい。  灰を舞い散らしながら落ちていくそれが、  ――カーン!  次の瞬間、鋭い音を響かせた。
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