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あの頃、そう思い至らなかったのは、俺がまだ純粋だったからかもしれない。
確かに俺は、物心付いた頃から弟のように可愛がっていた幼馴染みを、一度だけ汚してしまったことがある。まだ何の自覚もなかったある日の、夢の中でのことだ。
(英理……ごめん)
その時、俺は心の中で何度も謝罪した。
だけど、それでも分からなかったのだ。〝それ〟が何を指すのかということまでは。だってまさか、自分が同性にもそういう感情が抱けるなんて考えたこともなかったから。
そしてそのまま、俺は中学を卒業すると同時に家の都合で渡米して――。その後好きになった相手に再び同性がいたことで、ようやく自分の性的指向――バイセクシャルであること――を自認した。
そうなって初めて気がついたのだ。俺にとってはあれが初恋だったのではないだろうかと。
なるほど、初恋は実らないと言うのは本当らしい。そんなふうに思ったのを、今でもぼんやり覚えている。
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