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「何時……」
身体を起こし、ヘッドボードに置かれている時計で確認すると、6時を回ったところだった。遮光カーテンの隙間から細く朝陽が差し込んでいる。寝直すには微妙な時間だ。
「シャワー浴びたら……」
いつも通りに朝食を食べて、学校に行こう。
俺は無理矢理切り替えるように深呼吸をして、辞書を手に立ち上がる。
寝室を出て、リビングのローテーブルに辞書を置くと、その横に放置したままになっていた煙草が目に入った。
「煙草……」
その瞬間、頭を過ぎったのは夢に見たばかりの光景だった。
静の口元に添えられた真新しい煙草。
空打ちされるライター。
促せば素直従い、俺のそれに触れさせた白い穂先。
長い睫毛。
掠める前髪。
いつになく近い距離――。
最初はただ、本当に火を分けてあげるだけのつもりだった。
なのに何故、あんなことになったのだろう。
……思うよりも先に、動いていた身体。
不意を突くようにして奪った薄い唇は、想像よりもずっと柔らかかった。
唇と同じ、薄い舌。さらりとした唾液。
上顎を擽れば動揺もあらわに眼差しが揺れて、そのくせ応えるように淡く染まって行った目元――。
彼と重ねたキスはきわめて甘く、そして少しだけ苦かった。だけどそれすら俺の教えた味だと思えば、いっそう気分は高ぶった。
……あれは夢だ。全て俺の勝手な想像。
なのに、今でもたちまち鼓動が早くなる。
(だめだ……このままじゃ静の顔が見れなくなる)
脳内で再生される記憶に引き摺られそうになり、俺は慌てて頭を振った。いっそう振り払うように乱れた髪を掻き上げ、そのまま逃げるみたいに浴室に向かった。
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