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* * *
(……にしても、あんな夢を見るなんて……)
頭から熱めのシャワーを浴びながら、あまりの自己嫌悪に溜息が止まらない。
考えないようにしても、忘れようとしても、そう努めれば努めるほど、映像が鮮明に蘇ってくる。
映像だけじゃない。ともすればあの切なく抑えこまれた吐息までもが耳を打つようで――。
……理由は何となく分かっていた。
正直、俺が仕事に没頭する理由は院や将来のことだけじゃないからだ。
あの日、莉那にあんなふうにけしかけられたおかげで、妙に意識するようになってしまった自分の気持ち――そして彼の存在。そうかと言ってなにも変わらない、変えられない現実と関係性。
それこそがあんな夢を見せたのだろう。そうとしか思えない。
(ばかだな……)
現実の静が、あんなふうに俺を受け入れてくれるはずないのに。
だって彼はストレートで、過去にはちゃんと彼女もいて……。
そんな静に対して、どれだけ都合のいい夢を見ているんだろう。
そもそも、夢の中の俺は、あの後どうするつもりだったのか?
あんなふうに彼を抱いて――終わって、我に返って、その後は?
「ごめん、魔が差した」
「溜まってたんだ」
言い訳としたらそんなところか?
だとしたら、それから?
「忘れてほしい」
あるいは、
「これからも時々よろしく」
だけど今まで通りの友人ではいようって?
――どれをとっても最低だ。
最低最悪以外の何者でもない。
これほど自分に幻滅したことはない。
単なる一方的な夢とは言え……いくらなんでもひどすぎる。
恥ずかしくて、情けなくて、申し訳なくて……。
俺は次に静に会うとき、一体どんな顔して会えばいいのか――。
「なのに何で……」
そう思うのに、いまだ頭の中は夢での彼で一杯だ。
「……本当に俺って……」
起き抜けというのが言い訳になるだろうか。
下腹部に集まる熱は収まるどころか増すばかりで、見るまでもなく、しっかりと兆しているのが分かる。
「――最低だ」
俺は吐き捨てるように独りごち、自棄になったように手を伸ばした。
以前のように、適度に発散していないのもいけなかったのだろうか。
そろそろまた割り切れる相手と遊んでくるべきなのか――。
思いながらも、反芻してしまうのは結局静の姿態ばかりだった。
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