*6.深い意味はないはずで

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 *  *  * (……にしても、あんな夢を見るなんて……)  頭から熱めのシャワーを浴びながら、あまりの自己嫌悪に溜息が止まらない。  考えないようにしても、忘れようとしても、そう努めれば努めるほど、映像が鮮明に蘇ってくる。  映像だけじゃない。ともすればあの切なく抑えこまれた吐息までもが耳を打つようで――。  ……理由は何となく分かっていた。  正直、俺が仕事に没頭する理由は院や将来のことだけじゃないからだ。  あの日、莉那にあんなふうにけしかけられたおかげで、妙に意識するようになってしまった自分の気持ち――そして彼の存在。そうかと言ってなにも変わらない、変えられない現実と関係性。  それこそがあんな夢を見せたのだろう。そうとしか思えない。 (ばかだな……)  現実の静が、あんなふうに俺を受け入れてくれるはずないのに。  だって彼はストレートで、過去にはちゃんと彼女もいて……。  そんな静に対して、どれだけ都合のいい夢を見ているんだろう。  そもそも、夢の中の(自分)は、あの後どうするつもりだったのか?  あんなふうに彼を抱いて――終わって、我に返って、その後は? 「ごめん、魔が差した」 「溜まってたんだ」  言い訳としたらそんなところか?  だとしたら、それから? 「忘れてほしい」  あるいは、 「これからも時々よろしく」  だけど今まで通りの友人ではいようって?  ――どれをとっても最低だ。  最低最悪以外の何者でもない。  これほど自分に幻滅したことはない。  単なる一方的な夢とは言え……いくらなんでもひどすぎる。  恥ずかしくて、情けなくて、申し訳なくて……。  俺は次に静に会うとき、一体どんな顔して会えばいいのか――。 「なのに何で……」  そう思うのに、いまだ頭の中は夢での彼で一杯だ。 「……本当に俺って……」  起き抜けというのが言い訳になるだろうか。  下腹部に集まる熱は収まるどころか増すばかりで、見るまでもなく、しっかりと兆しているのが分かる。 「――最低だ」  俺は吐き捨てるように独りごち、自棄になったように手を伸ばした。  以前のように、適度に発散していないのもいけなかったのだろうか。  そろそろまた割り切れる相手と遊んでくるべきなのか――。  思いながらも、反芻してしまうのは結局静の姿態ばかりだった。
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