7.君には触れない

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「もしかして、気分悪い?」  気のせいかもしれない。俺の気にしすぎかも知れない。  室内の明度、照明の色、長めの前髪が落としている影のせいで、そう見えるだけかもしれない。  思ったけれど、何となく捨て置けなくて静の顔を覗き込む。 「別に……平気です」  静は見られたくないみたいに更に顔を俯けた。 「あれ……やっぱ何か調子悪い?」  そこに横から声をかけてきたのは明日花だった。  明日花は俺の隣に膝をつき、問い返すように顔を向けた俺に、「いつもほど飲まないなって」思ってた、と曖昧に首を傾げた。  気のせいかもしれない程度の違和感だったみたいだけど、それに明日花は気付いていたらしい。 「熱とか……」  静に向き直り、俺はその額に手を伸ばす。するとそれを避けるようにふいと顔を動かされた。 「こらこら、じっとしてなさい」  それを見ていた明日花が、冗談めかして言いつつ、静の額に触れた。 (明日花には大人しく触らせるんだ……)  瞬間、何より先にそんな感想を抱いてしまう。  俺の方がきっとずっと静のことを見ているのに、明日花の方が色々と気付くのが早かったということにもどこかで焦燥していた。    ――今はそんな場合じゃないのに。 「熱はないみたいだね。どうする? ほんとにちょっと酔っただけなら……」 「すみません。帰ります。多分寝不足です」  昨夜は課題でなかなか寝られなかったから。  明日花の言葉にそう溜息混じりに答え、静はゆっくり顔を上げた。 「送るよ」  一度は流された言葉を、再度口にする。  答えたのは明日花だった。 「うん、何かちょっと心配だし。お願いしていいかな」  静がイエスともノーとも答えてくれない理由は分からないけれど、俺は頷き、手早く自分と静の荷物を回収するために一旦テーブルに戻った。
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