7.君には触れない

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 *  *  *  ――君には触れない。  そう自分に言い聞かせながら、俺は静にキスをした。意識のない彼に、きわめて一方的なキスを。  例え君を好きだと認めても、何も変わらないと思っていた。変わらない自信があったのに。  ……あの時はただ、水を飲ませたかっただけ。  それは言い訳になるだろうか。  思いながらも、現実(あの時)の感触はいつまで経っても消えてはくれなくて、むしろ時が経てば経つほど、忘れたくないと思い始めているのを実感する。  ……静の唇は、夢で見るより滑らかで、少しだけひんやりと冷たかった。 (――だめだ)  自室のベッドの上で、見慣れた天井を茫洋と見詰めながら、俺は思考を振り払うように小さく頭を動かした。  顔にかかる長い髪を緩慢に掻き上げ、その手を額にとどめたまま、深く長い息をつく。  ……このままでは本当にだめになる。  もともとそんな気はなかったじゃないか。  いや、今だってそれは変わらないはずだろ。  俺は改めて自分に言い聞かせた。  後悔したくないんだ。  だから俺は、もう二度と()には触れない。触れてはいけない。  これ以上取り返しがつかなくなる前に、今度こそ全てに蓋をする。  彼を想う気持ちも、知りたいと望む気持ちも、触れたいと願う気持ちも全部――全部。  しっかりと蓋をして、鍵をかける。
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