198人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
(……? 静の知り合い?)
高校生……いや、大学生だろうか。ボブカットの可愛らしい女の子と、静より少し背の低い細身の男。
二人からはまだ距離のあった静が、一拍遅れで彼らを視界に入れる。その瞬間、ほんの僅かにだけ、静の空気が張り詰めた気がした。
(気のせいかな……)
けれども、次にはいつも通りに「いらっしゃいませ」と笑みを貼り付けている。
二人もそれに応えるように笑顔を返し、そうしてそれぞれ違う方向へと足を向けた。
……店の常連客だろうか?
思いながら、取り出した煙草とジッポを天板に置く。
アリアの喫煙席は、場所によっては禁煙席とついたてごしに隣接している。隣接していても、テーブルごとに設置されている小型の空気清浄機がのおかげか、受動喫煙についてクレームがくることはほぼないらしい。
そして喫煙者である俺は、一人の時――静と一緒の時もだが――は必ずその席を利用している。今日だって同じだ。
そのついたての向こうに、例の二人が座った。
(静は……)
一応確認してみるが、店内にはもうその姿はない。既にバックルームへと引っ込んでしまったようだ。
俺が来店していることにも、まだ気づいてはいないのだろう。気づいていたら、いつもは目礼くらいはしてくれる。莉那と二人で来たときだけは、タイミングが合わなかったみたいだけど……。
「全っ然、知らなかったぁ」
そこに聞こえてきたのは女の子の声だ。
ついたての向こうで交わされる会話に、俺は思わず耳を傾けた。
「まさかアリアでバイトしてるなんて……」
「そうだね。僕もびっくりした」
(これは……静のこと、だよね?)
天板に置いた煙草とジッポに手を乗せたまま、固まっていた俺の横に、人影が差す。
はっとして目を向けると、そこには注文を取りに来てくれたスタッフが笑顔で立っていた。静ではない。
俺は急くようにメニュー表を見遣り、最初に目についただけの日替わりランチを注文した。食後のドリンクにはホットコーヒーを。
スタッフは簡単にオーダーを繰り返し、笑顔と会釈を残して踵を返した。その背を見送るのもそこそこに、俺は再びついたての向こうに意識を集中させた。
「――ちゃんも知らなかったの? 元々知り合いなんだよね?」
「まぁ知り合いって言っても……そこまで親しかったわけじゃないから」
(……単なる常連客ではなさそうだな)
できるだけ不自然に思われないよう、水のグラスに口を付けながら、俺は彼らの言葉を反芻した。
最初のコメントを投稿しよう!