8.刻む距離

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(……? 静の知り合い?)  高校生……いや、大学生だろうか。ボブカットの可愛らしい女の子と、静より少し背の低い細身の男。  二人からはまだ距離のあった静が、一拍遅れで彼らを視界に入れる。その瞬間、ほんの僅かにだけ、静の空気が張り詰めた気がした。 (気のせいかな……)  けれども、次にはいつも通りに「いらっしゃいませ」と笑みを貼り付けている。  二人もそれに応えるように笑顔を返し、そうしてそれぞれ違う方向へと足を向けた。  ……店の常連客だろうか?  思いながら、取り出した煙草とジッポを天板に置く。  アリアの喫煙席は、場所によっては禁煙席とついたてごしに隣接している。隣接していても、テーブルごとに設置されている小型の空気清浄機がのおかげか、受動喫煙についてクレームがくることはほぼないらしい。  そして喫煙者である俺は、一人の時――静と一緒の時もだが――は必ずその席を利用している。今日だって同じだ。  そのついたての向こうに、例の二人が座った。 (静は……)  一応確認してみるが、店内にはもうその姿はない。既にバックルーム()へと引っ込んでしまったようだ。  俺が来店していることにも、まだ気づいてはいないのだろう。気づいていたら、いつもは目礼くらいはしてくれる。莉那と二人で来たときだけは、タイミングが合わなかったみたいだけど……。 「全っ然、知らなかったぁ」  そこに聞こえてきたのは女の子の声だ。  ついたての向こうで交わされる会話に、俺は思わず耳を傾けた。 「まさかアリアでバイトしてるなんて……」 「そうだね。僕もびっくりした」 (これは……静のこと、だよね?)  天板に置いた煙草とジッポに手を乗せたまま、固まっていた俺の横に、人影が差す。  はっとして目を向けると、そこには注文を取りに来てくれたスタッフが笑顔で立っていた。静ではない。  俺は急くようにメニュー表を見遣り、最初に目についただけの日替わりランチを注文した。食後のドリンクにはホットコーヒーを。  スタッフは簡単にオーダーを繰り返し、笑顔と会釈を残して踵を返した。その背を見送るのもそこそこに、俺は再びついたての向こうに意識を集中させた。 「――ちゃんも知らなかったの? 元々知り合いなんだよね?」 「まぁ知り合いって言っても……そこまで親しかったわけじゃないから」 (……単なる常連客ではなさそうだな)  できるだけ不自然に思われないよう、水のグラスに口を付けながら、俺は彼らの言葉を反芻した。
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