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明らかに気を遣わせてしまった気がする。
俺は内心申し訳なく思いながら、持っていた煙草を一旦箱に戻し、正面に置かれた皿に目を向けた。季節のグラタンと本日のパスタ、それにサラダと付け合わせがセットになった人気の日替わりランチ。ドリンクは食後を指定したから、後で持ってきてくれるはずだ。
平静を装い、籠に入れて添えられていたカトラリーに手を延ばす。その間に、ついたて越しの二人もオーダーを済ませたらしい。
静ではない店員が彼らのテーブルから去っていったのが見えて、俺もひとまず取り上げたフォークを皿に向けた。
「きっとここの条件が良かったんだよ。ほら、家からの距離とかもあるだろうし」
「そうだったらいいけど……。条件……条件かぁ」
「んん……?」
再開された会話は相変わらず聞こえていたけれど、次第に静のことからは離れていっているようだった。
それならと完全に遮断しないまでも、食べる方にも意識を向ける。
「私も条件いいところに変えよっかな。祐ちゃんみたいに、家庭教師とか」
彼の名前は〝祐ちゃん〟と言うようだ。
……一体何者なんだろうか。静をあんなふうに語る祐ちゃんは。
女の子の方は大体俺の予想通りだろう。
だとしたら、もしかしたら男の方もバイト先が同じだったとか……?
(いや……家庭教師をしているなら違うか……)
年齢は大して変わらないように見える。
バイトの内容からして、彼もきっと学生だ。
昔の同級生……にしては、静のことを〝子〟と言ったのがひっかかる。
「家庭教師……君にできるかなぁ」
「えっ、頭が足りないって言ってる?」
「そうは言ってないけど……ふふ」
「言っ……言ってるじゃない……!」
(付き合いたてのカップルか……)
会話が進むにつれ、幾分拍子抜けしたような気分になった俺は、密やかに息をついた後、つついていたパスタを黙々と口に運んだ。
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