199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
* * *
親が用意したマンションで独り暮らしをしながら、何不自由なく送っていた日本での学生生活も、気がつけば三年目となっていた。
ちなみにその間、俺は一度も恋人を作っていない。自分でそうあるべきだと思ってのことだ。
どうせ俺は卒業と同時にアメリカに戻るのだ。職業柄、軽率な行動は極力避けるべきだという意識もあったし、何より、どうせ学生生活を謳歌するなら、たった一人の恋人よりも多くの友人を作りたい、その時間を大切にしたいという気持ちもあった。
そしてそんな俺のスタンスは、いつのまにか公然の秘密のような状態になっており――。
「私のこと、嫌いじゃないでしょ……?」
なのに不思議と減らないのが、こう言った一方的なアプローチだった。
「嫌いじゃないよ。どちらかと言えば好きかな」
正確には友人としての好きだけど。とは心の中だけで。
「だ、だったら……」
「でも、ごめんね」
そんな感じで、時には何度も同じ子から告白されることもあった。いくら言われたって、結果は変わらないのに。その時俺が返す言葉なんて、それこそ噂で耳にしているだろうにね。
「卒業したら、日本からいなくなるから……だよね?」
「うん」
「あと、仕事のため……」
「それもあるね」
そこまで知っているなら、とも思うけれど、彼女はまだ退いてはくれない。
卒業後の進路。職業のこと。自分から多くは語らないけれど、聞かれれば可能な限り答えたりもする。それをこの子も誰かから聞いたんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!