1.君と出会ったその意味は

4/9

199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
 *  *  *  親が用意したマンションで独り暮らしをしながら、何不自由なく送っていた日本での学生生活も、気がつけば三年目となっていた。  ちなみにその間、俺は一度も恋人を作っていない。自分でそうあるべきだと思ってのことだ。  どうせ俺は卒業と同時にアメリカに戻るのだ。職業柄、軽率な行動は極力避けるべきだという意識もあったし、何より、どうせ学生生活を謳歌するなら、たった一人の恋人よりも多くの友人を作りたい、その時間を大切にしたいという気持ちもあった。  そしてそんな俺のスタンスは、いつのまにか公然の秘密のような状態になっており――。 「私のこと、嫌いじゃないでしょ……?」  なのに不思議と減らないのが、こう言った一方的なアプローチだった。 「嫌いじゃないよ。どちらかと言えば好きかな」  正確にはの好きだけど。とは心の中だけで。 「だ、だったら……」 「でも、ごめんね」  そんな感じで、時には何度も同じ子から告白されることもあった。いくら言われたって、結果は変わらないのに。その時俺が返す言葉なんて、それこそ噂で耳にしているだろうにね。 「卒業したら、日本からいなくなるから……だよね?」 「うん」 「あと、仕事のため……」 「それもあるね」  そこまで知っているなら、とも思うけれど、彼女はまだ退いてはくれない。  卒業後の進路。職業のこと。自分から多くは語らないけれど、聞かれれば可能な限り答えたりもする。それをこの子も誰かから聞いたんだろう。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加