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「ご縁がありますように」
周りに人がいないのをいいことに、声に出しながら賽銭箱へと五円玉を落とす。
隣に立つ静にも五円玉を手渡すと、「そういうタイプでしたっけ?」と、若干辟易したようにこぼされたけれど、遅れて静もそれを入れ、一緒に手を合わせてくれた。
「――はい」
夜景が望める場所に設置された石造りのベンチに、静が背中を丸めて座っている。横からホットコーヒーを差し出すと、静がちらりと俺を見て、「……ありがとうございます」と白い息を吐いた。
日が変わる頃になり、ようやく地元の人らしき参拝客の姿を見るようになった。それでもぽつりぽつりと言う程度で、しかも彼らは引き上げていくのも早い。
「……何お願いしたの?」
俺は静の隣に佇むと、自分の缶コーヒーを手の中で転がしながら訊ねた。
受け取った缶で暖をとっていた静が、溜息みたいにふう、と呼気を漏らす。
「何って……感謝の言葉、ですかね」
「神様への?」
「初詣って本来そういうものでしょ」
「そうだけど……」
夜景に目を戻した静の横顔を見ながら、俺は小さく肩を竦める。
……けれども、ややして僅かに目を細め、探るようにつついてみた。
「……それだけ?」
「……」
「……じゃないってことかな」
「…………まぁ」
やっぱり。
その反応に、俺は思わず破顔してしまう。
すると静は先を読んだかのように、「言いませんよ」と苦笑した。
それもまぁ、想定内だ。
――だけど、
「見城さんだって、言わないでしょ」
そう言って静は缶を頬に当てながら、伏し目がちに笑う。それはちょっと想定外だった。
俺は「うーん……」とゆるく首を傾げ、少しだけ間を置いた。
「……そうだな。俺も言えない、かな」
「〝言わない〟じゃなくて、〝言えない〟んですか?」
「あ……」
「珍し」
静が冷やかすように呟く。一瞬閉口した隙に、静の目がちらりと俺を見た。そのなんとも言えない眼差しに、とくんと小さく鼓動が跳ねる。
「まぁ……うん。無事年も明けたし……。そろそろ、帰ろうか」
「……そうですね」
「おみくじもいいの引けたしね」
俺は誤魔化すように笑みを貼り付け、プルタブを引き上げた。
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